はるの魂 丸目はるのSF論評


SCARDOWN 軌道上の戦い
SCARDOWN

エリザベス・ベア
2005



「サイボーグ士官ジェニー・ケイシー」三部作の第2作目は、「SCARDOWN 軌道上の戦い」。この三部作は、毎月翻訳発行するということで、読み終えたところで本屋に並んでいた。早いなあ。
 さて、いつも困るのだが、こういう三部作の第2作は前作と後作の間をつなぐ重要な役割を持つ。前の作品のネタバレをすることにつながりかねないので、書きにくい。しかも、まだ後作を読んでいないので、どこまで書いていいのか、後のことを考えると、それも書きにくい。どうしよう。

 いつものことだが、前作のネタバレ前提で書くことにする。前作を読んでいないと分からない作品だし、三部作で1本と考えてもいいような内容なのである。
 第1作目を読んでいない人は、ここから先は読まない方がいい。絶対!
 軽いストーリーものだから、ネタバレはつまらないではないか。
 ネタバレしてから読んでも、楽しめるとは思うけれど。
 そうでなければ、三部作なんて販売できないのだから。
 それでも、やはり、知らない方が楽しい。
 ということで、第二作を読んだ方、および、
 絶対このシリーズは読まないという方へ。



































































 本書は、タイトル通り「SCARDOWN 軌道上の戦い」である。
 前作で壊れかけた初老のサイボーグ実験体だったジェニーちゃんは、ふたたび手術を受けて生まれ変わった。50歳でも新たな誕生だ。
 はるかはるか昔のこと、火星に2隻の恒星船が遺棄された。それは人類とは異なる異星知的生命体のものであり、光速を超えた空間移動が可能になる技術や、ナノロボットの技術が使用されていた。カナダ=ユニテック社と中国は、いずれもこの技術を手にし、崩壊しつつある地球生態系を放棄して、他星系への移住を考え、恒星船の建造を行った。
 中国もカナダも、両者の思想は相容れず、いずれかのみが生き残ることを模索して、両者の緊張は高まっていた。
 恒星船を飛ばすには、高度な技能と、ナノロボットや恒星船とのヴァーチャルな融合が欠かせない。サイボーグ実験体として異物との親和性をみせたジェニー・ケイシーは、異星技術を元にしたナノロボットを体内に入れ、最新の技術によって全身の手術を受け、新たな身体能力と新たな人工左腕、目を入手した。そして、恒星船のパイロットとして、軌道上に存在するカナダ軍恒星船モントリオールに乗船したのであった。
 一方、天才科学者エルスペスが生み出した全人格知能(自意識を持った人工知能)リチャード・ファインマンは、ネットの世界を駆け回り、ナノロボットネットワークの高度な機能を発見、活用し、ついにはジェニーの人工知能領域を経由して自らも恒星船に乗り込むことに成功した。
 ま、ここまでは、前作の後半のお話し。

 本作では、地球に取り残され、物語の蚊帳の外に置かれた感のあるレザーフェイスの復讐劇を幕間に起きつつ、軌道上の中国恒星船「黄帝」とカナダ軍恒星船「モントリオール」を、異星船ナノロボットネットワークのハッキングによってこっそりと動き回る人工知能リチャードの活躍や、生まれ変わったジェニーによる軌道上、地球上での身体を張った戦いが繰り広げられる。
 そして、ヴァレンズ大佐の真の目的が明かされる。
 なんと、地球の気候変動は人類が地球上でまったく住めなくなる事態に向かいつつあったのである。中国はすでに地球を見限っていた。ヴァレンズ大佐もまた。
 この物語が幕を開けたのは、2062年8月末のことであった。本書「SCARDOWN 軌道上の戦い」の開幕は同年11月。わずか3カ月の出来事である。そして、本書は2063年1月で終わる。2カ月間で世界が変わる。
 おいおい。なんてこった。本書「SCARDOWN 軌道上の戦い」でも、さらに大変なことが起こり、物語は意外な展開を見せる。
 衝撃!
 わはは。おもしろいぞ、これ。

(2008.04.23) (2008.3.30)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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