はるの魂 丸目はるのSF論評


創世伝説
THE GENESIS QUEST

ドナルド・モフィット
1986



 昔、一時期であったが初期のSETI@homeに参加していた。参加していたといっても、自宅で動かしていたサーバ用パソコンにクライアントソフトをインストールし、スクリーンセイバーでコンピュータ時間をささやかに捧げていただけである。その後、自宅内サーバは家庭用NASに置き換わり、FAXサーバもプリンタサーバも、パソコンサーバの必要はなくなり、WEBサーバも安いホスティングサービスが普及したことから、その役目を終えた。古いPENTIUM(クラシック)クラスの自作パソコンが、残骸となって家の押し入れに数台眠っている。電力消費量は減り、メンテナンスの心配も減り、一時期の趣味と消えてしまった。

 本書「創世伝説」の冒頭は、宇宙からのメッセージを月の電波観測所で受信したところからはじまる。ただし、ここからがドナルド・モフィットの見せ場である。今回の電波を受信したのは、宇宙時代をはじめたばかりのナーと呼ばれる種属。そして、電波はナーの父星のある銀河から37000000光年離れた別の銀河から届いた通信であった。それを送ったのは「人類」。1周期50年に渡る膨大なデータを、銀河を渡って届けられるような莫大なエネルギーを浪費して送ってきたのである。そのデータは、ナーが受信をはじめたとき周期の半分ぐらいとなっており、その後1周期が完全に受信され、次の追加データを伴う周期の途中で電波は届かなくなった。以来数百年、電波は再開されていない。そして、別の知的生命体を示す受信は、ナーの銀河からも、どの銀河からも届いてはいなかった。
 おだやかな知的生命体であるナーは、届けられたデータを解析し、科学技術の急速な進歩を果たし、宇宙進出の速度も速まった。それと同時に、生命科学も発展させ、ついには送られたデータから「人間」を生み出し、ナーの社会の中に人間を少しずつ受け入れ始めていた。人間はナーの庇護の元、原人類が送ってきたデータの中から芸術を復興し、社会を少しずつ築こうとしていた。
 しかし、人間の数が1万を超え、人間は再び「政治」を生み出す。ナーから独立し、人類だけの世界をつくり、やがてはこの銀河で優先的に繁栄することを望むものもではじめた。
 主人公の人間ブラムは、幼いころからナーとのコミュニケーション能力に長けた天才的科学者の素養を持つ男の子であった。幼いころには、いつか人類の故郷を目指したいと夢想し、長じてからは、育ての親でありナーの社会でも高い尊敬を集めているヴォスの職業であるバイオサイエンスの分野で働き始めていた。
 その才能に目をつけられ、ブラムは人類の独立を目指す革命的秘密結社に巻き込まれていく。人間とナーとの間に隠し事も、秘密もないと確信していたブラムは、人類の独立を否定しながらも、対処できないままに事態は進展していった…。そして、ついに。

 本書「創世伝説」の中で出てくるガジェットのうち一番壮大で楽しいのが地球のポプラを原人類が改変してつくった真空ポプラである。彗星の巣と太陽の光を求めて宇宙を自ら動き、種を蒔き、育つ生きた宇宙船である。宇宙船というよりも、自立移動のコロニーといってもいい。彗星から水をベースに酸素、水、そのほかの物質を取り入れ、光(X線も含む)を吸収して、エネルギーとする。ナーは、この真空ポプラが自由に繁殖できるよう改変を加え、すでにナーの宇宙進出と合わせて星系外縁部にはこの生きた宇宙船の森ができている。必要に応じて、収穫してくるだけでいいのだ。すごーい。

 本作とは関係ないがモフィットの前作「木星強奪」と本書「創世伝説」の冒頭は良く似ている。前者は太陽系に侵入してきた謎のX線源を月の科学者が発見するところからはじまる。本書「創世伝説」ではナーの科学者が人類の電波を発見するところからはじまる。いずれも、ファーストコンタクトの影を思わせる宇宙的イベントで幕を開け、その世界が変わる様を描いている。ひとつのパターンであるといえる。また、どちらの異星人も重力的に人類とそう変わらない世界の出身であり、相互の接触が可能となっている。
 まあ、ある意味で意外性のない、ご都合主義なのだが、ハードSF作家としてアイディアを読ませるためにストーリーを紡いでいる感じなので、あまり気にしないことである。
 それにしても、3700万光年の果ての人類かあ。なかなか呆然とする壮大さですな。





(2008.08.10)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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