はるの魂 丸目はるのSF論評
第二創世記
SECOND GENESIS
ドナルド・モフィット
1986
ドナルド・モフィットが1986年に発表した「創世伝説」の続編が本書「第二創世記」である。1986年に発表されていることから、一連の作品として書かれていることが分かる。実際のところ「第二創世記」は「創世伝説」の後半部分と言ってもいい。もちろん、「創世伝説」はきちんと結末を迎えている。ここまでで満足してもまったく問題ない。一方、「第二創世記」の方は、もし、「創世伝説」を読んでいなければ、いまひとつストーリーに入り込むのに時間がかかるかもしれない。そういう言葉があるとすれば「続編感」に満ちているのだ。だから、「第二創世記」をこれから読もうという人は、古本屋さんで、「創世伝説」を探して読んでからの方がより楽しめる。まあ、そこまで力を入れて探すほどのこともないかかもしれない。
ということで、いつものことだが、ここからは前作のネタバレ満載である。
間違って来た人には申し訳ない。即刻このサイトを離れ、3700万光年の果てまで旅をしてきて欲しい。
まあ、正直なところネタバレしても困らない感じもするのだが、やはり、新鮮な気持ちで読みたいではないか。
前作「創世伝説」で、原人間のデータの中に潜んでいて不死化ウイルスを再発見して実用化したブラム。それだけではない。前作でナーとの間に新たな関係を構築し、ハドロン光子!によるラムスクープエンジンと生きている真空ポプラ宇宙船イグドラシルの連結恒星船に乗って3700万光年離れた人類の故郷を目指すことになった。ナー社会の人類15000人のうち実に5000人がイグドラシルに乗り込み、光速に限りなく近い速度を出し、ナーの銀河中心部にあるブラックホールを利用してさらに加速し、人類の銀河をめざすのである。その過程で、かつて原人類がそうであったように、ナーの生命と生態系、文明のデータをイグドラシルから送信し、ナーが宇宙に広がるのを手助けすることとなった。
舞台の前半はイグドラシルとイグドラシルの搭乗者にとっては時間が早回りしている外の宇宙世界の物語であり、後半は、原人類が滅んだ後の7400万年後の銀河の姿が描かれる。
相対論的時間効果が激しいので、ちょっとだけメモしておこう。
物語は、イグドラシルがナーの銀河中心部を目指して、主観時間で20年後にはじまる。もうまもなく銀河中心部である。外では5万年の時間が過ぎている。このナーの銀河中心部で、不死となったブラムほかの人間たちは、この銀河に迫り来る危機を知る。しかし、それをナーに伝える方法はもはやない。そして、それは彼らとは違う時間軸でのできごとでもあった。
それから3年後、イグドラシルは銀河と銀河の間の何もない空間をほぼ光速で疾走していた。外の世界では20万年が過ぎ、ナーと、彼らを送り出した人間の文明も滅んだようであった。
そして、500年後。3700万年後の未来である。実に、原人類の送り出したデータが別の銀河の知的生命体ナーによって受信され、人間が復元されてから7400万年が過ぎていた。
もちろん、原人類の姿はないが、そこには原人類が残した宇宙規模の構造物が遺跡として残っていた。そして、新たな生命体の姿が…。
いくつかの出来事を経て、イグドラシルは、人類の銀河を離れ、大マゼラン星雲を目指すことになる。それはさらに数十年後のこと。つまりは、100万年後の世界である。
途方のない未来である。途方もない時間経過である。
もうびっくり。
それを見据える不死となった人々。不死であるとはいえ、若返りも含むことから、生殖能力は継続する。つまり、人口が増え、みな一定の青年的容姿で維持される社会が誕生する。イグドラシルの内部は2万人を受け入れても余裕のある空間と能力を持つ。500年の間に、少しずつ人口は増え、事故や不死ウイルスに抗体のある一部の人を除き、死は縁遠いものとなる。そういう社会で、主人公たちはあまり変わらない。おいおい。いろいろ突っ込みたいところはあるが、まあ、遺伝子改変された人類であるし、そういうものだと割り切ればいいのか。
ストーリーとしては、前作「創世伝説」からの仕込みも含めて、なるほどね、という感じで、とくに驚くようなことはない。設定が途方もないと、驚く気もなくなるのかも。主人公のブラムたちはよく驚いたりしているけれど、代わりに驚いてくれている感じがする。
そうそう、宇宙で誕生する真空ポプラ宇宙船である。これにブラムたちは「イグドラシル」という名前を付けたが、生命樹のことであるな。20世紀のSFの集大成と言われる「ハイペリオン」(1989 ダン・シモンズ)にも出てくるねえ。本作が元ネタだろうか??
(2008.08.10)
(2008.08.10)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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