はるの魂 丸目はるのSF論評
遙かなる地球の歌
THE SONGS OF DISTANT EARTH
アーサー・C・クラーク
1986
2008年、地球上のすべての政府に渡された「太陽系内反応についての若干の覚え書」は、太陽系の終わりを予言する科学報告であった。太陽の内部に変調があるという。世界の終わりは、すくなくとも1000年後と予想された。
2553年、人類は最初の播種宇宙船を宇宙に出す。ロボットと凍結胎児、慎重に選択された人類のライブラリや生物を乗せた船である。2786年、アルファ・ケンタウリAの惑星から最初の播種計画から成功のシグナルが到着する。20隻以上の播種船が様々な太陽系を目指していった。その後、2700年には凍結胎児ではなく遺伝情報と各種装置、ロボットを運ぶようになった。その惑星のひとつ水と島の惑星サラッサでは、人類の末裔たちが自ら新たな社会を築き日々の暮らしを過ごしていた。限られた陸地を最大限有効に活用するため、自ら人口規制を敷いて人類の生存を確実にするため生きる人々。その歴史は700年になる。
その惑星サラッサに、恒星船が到着する。知的生命体とのファーストコンタクトの相手は、地球からやってきた人類であった。
3500年、太陽系最後の日を近くに迎え、人類は最後の科学技術的ブレークスルーに間に合い、量子駆動を実現し、近光速船の実用化と冷凍睡眠の技術を手に入れた。
3600年代になり、恒星船による人類の最後の大移住がはじまる。それは本当になんとか間に合ったのであった。彼らは、太陽系外から太陽系の最後の日を目にし、新たな惑星を目指してサラッサに立ち寄ったのである。
同じ人類でありながら、ふたつの異なる道を歩んできたサラッサ人と最後の地球人たちの日々が、クラークの優しい筆致で描かれる。
美しい海を生きるサラッサ人は、クラークにとっての理想の人々なのかも知れない。
クラークが、チャールズ・シェフィールドの「マッカンドルー航宙記」(1983)で登場した量子駆動を受けて、恒星間ラムシップの可能性を広げたのが本書「遙かなる地球の歌」である。いよいよ、人類は科学的な理論をベースにして限りなく光速に近づくアイディアを手に入れたのである。
そうそう、先頃読んだ「量子真空」(アレステア・レナルズ 2002)も、ほぼ光速まで近づいていた。「第二創世記」(ドナルド・モフィット 1986)も、同じ方法で銀河系をまたいでいたなあ。
私たちの細部には、私たちが制御できない信じられないエネルギーが波打っているのだ。
そして、私たちのはるかに広く大きな時空では信じられないエネルギーが激しくうごめいている。
その間にいる私たち。そして物質の構造体としての人間。不思議ねえ。
海の波音でも聞きに行こうかしら。
(2008.08.24)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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