はるの魂 丸目はるのSF論評


第七の封印
WYRMS

オースン・スコット・カード
1987



 昔ながらの古本屋さんを見かけると、ちょっとだけ立ち寄って、何か掘り出し物がないかどうか探してみる。3冊100円というコーナーに古びた本書「第七の封印」をみつけた。カードの作品は「エンダーのゲーム」シリーズのほかは、一部しか読んでいない。オースン・スコット・カードの宗教観が強く出てくると読みづらい気持ちになるからである。本書の邦題は「第七の封印」。もろ宗教的タイトルである。そこで敬遠していたのだが、1冊だけハヤカワSF文庫が棚で日に当たっていたので、ついつい救済してしまった。ほかに選ぶものもなく、1冊だけを買い求めると、「1冊でも100円」とのこと。黙って100円を支払う。
 さて、原題は「WYRMS」。読み終わってから調べてみたのだが、古い言葉で、虫、大きな芋虫のような虫、ドラゴン、大きな蛇みたいな意味があるらしい。「ワーム」の古い綴りのようなものかもしれないが、ドラゴンと訳してある物もあった。このあたり、語感と語彙に日本語とのずれがあって悩ましい。「WYRMS」が訳しにくい単語でもあるし、邦題を「第七の封印」とつけた気持ちは分かるのだが、もし、「WYRMS」に該当する日本語があって、それが邦題になっていたら、もっと理解しやすい作品であっただろうし、宗教的だ!と構えることもなかったかもしれない。私がタイトルに先入観を持ちすぎるのかも知れないが。実際、カードの宗教観がたっぷり入っている作品であることは間違いないが、読んでおもしろかったのも事実。

 さて、昔々遠い昔のこと、宇宙船コンケプトアン号に乗った人類が惑星イマキュラータに降り立った。伝説によると、船長が狂ってしまったという。惑星イマキュラータはとても変わった惑星であったが、鉄などの金属がほとんど採れなかった。人類はそこで生き延び、国をなし、古来人類の宗教が移ろいながらも、人々は宗教心篤く生き、惑星の生態系を変え、繁栄していった。
 国は王国となり、あるときは統一され、あるときはいくつもの国に分かれ、それでも人々は生きていた。ピース卿は大国・七国王のオルクに仕える外交官/暗殺者である。しかし、彼の父はかつての王であり、オルク王はピース卿の父を暗殺して王になった男であった。オルク王は、その才覚によりピース卿を殺すより手元に置いておく方が国の安定になることを知っていた。ピース卿には、13歳の娘ペイシェンスがいた。ペイシェンスもまた、その忠誠を常に疑われながらも、父のピース卿とともに外交官/暗殺者としてオルク王に仕えていた。
 しかし、ペイシェンスは、正当な王の後継として、また、伝説の宗教的救い主であるクリストスを生むべく約束された「第七かける七かける七代の娘」として多くの人々の隠れた信仰と敬愛の対象でもあった。
 ピース卿の死によって、ペイシェンスは自らの運命と立ち向かうこととなる。343世代前に予言された彼女の運命とはなんなのか?真実なのか? オルク王の刺客から逃れ、ペイシェンスは自らの運命と立ち向かうために惑星イマキュラータを旅し、すべての秘密の源であるクラニングスに向かうこととなる。旅の途中で人間や亜人間の連れを見つけ、やがて彼女は惑星に隠された大きな秘密と罪に向き合うこととなった。

 この惑星イマキュラータは実に不思議な惑星である。人類が持ち込んだ動植物やもともとイマキュラータにいたと目される動植物は、その動植物を研究し、観察するものの意志によって自ら品種改良していくのである。その不思議な交感の原因は不明なままに、まるで人類をイマキュラータが迎え入れてくれるような状況に人々は慣れていた。すでに、343世代、数千年が過ぎており、人類の知恵や知識は惑星イマキュラータの現実に沿った形で変わっていたのである。しかし、この惑星イマキュラータの生態系と動植物の変異こそが、大いなる秘密であった。
 ペイシェンスの旅は、この秘密を解き明かし、人類と惑星イマキュラータが真に合一するためのものであった。惑星イマキュラータの秘密とは、人類が抱えてしまった業とは?

 本書「第七の封印」と同時期に書かれたカードの作品に「死者の代弁者」(1986)がある。「エンダーのゲーム」の直接の続編であり、エンダーが成長し、生きるために必要な場所を探す旅に出る。ここで、カードは惑星ルジタニアを登場させ、そこのきわめて種類の少ない生物群でできた惑星生態系と、その惑星の生命と人類のコミュニケーションについての物語を書き表した。
 本書「第七の封印」はもうひとつの「死者の代弁者」である。もしかしたら、惑星イマキュラータにエンダーが行くことになったかも知れない。もちろん、惑星ルジタニアの生命や生態系と、惑星イマキュラータのそれは大きく異なっているが、人類と非人類および惑星生態系との対話=コミュニケーションのあり方はとても近いものを感じる。
 そこで語られているのは、人類と他の生命体や生態系との対話の可能性である。
 このふたつの作品「死者の代弁者」と「第七の封印」はいずれもカードの倫理観、宗教観が強く出ている作品である。しかし、だからといって作品としての価値を減じるものではない。ここに描かれたふたつの惑星のふたつの生命のあり方は、まさしくセンス・オブ・ワンダーである。「エンダーのゲーム」を読み、「死者の代弁者」「ゼノサイド」と進んだ人は、私のように先入観で敬遠することなく本書「第七の封印」にも手を伸ばしてみて欲しい。



(2008.09.08)




TEXT:丸目はる
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