はるの魂 丸目はるのSF論評


プロバビリティ・サン
PROBABILITY SUN

ナンシー・クレス
2001



「プロバビリティ・ムーン」に続く、三部作の第二弾である。直接の続編で、前作の謎解きと、新たな展開を迎える。前作「プロバビリティ・ムーン」よりも戦争SF色やエンターテイメント色が強くなった。「共有現実」というややこしい世界観を読者に共有する必要がなくなっただけ、物語を展開しやすくなったのである。そうしてもうひとつ、本書「プロバビリティ・サン」のエピローグでようやく年代がはっきりと示される。2167年という数字がさらりと明らかにされる。つまり22世紀なのである。来世紀だ。ちなみに、異星種族フォーラーとの戦争によって人類は多くの星系を失い始めているが、それでも、人類は、地球、火星、月、ベルト域、ティタンなどに数十億の人口を有しているらしい。21世紀初等の現在でも「数十億」であるのは変わらないのだが。
 それから、もうひとつ、前作でははっきりしなかったことが、明らかになる。フォーラーは、あんまり人類型ではなかったのだった。
 さて、「プロバビリティ・サン」の話だが、前作で発見された「もうひとつの究極兵器」を研究、奪取することと、姿がはっきりしなかった強大な敵であるフォーラーを捕獲し、研究することのふたつが、ラウル・カウフマン大佐に与えられた使命である。そのために、天才物理学者、テレパスに近い特殊な共感能力をもつ超感覚者、前作に登場した地質学者のディーター・グルーバーと人類学者のドクター・アン・シコルスキなど個性派揃いのチームをまとめて作戦を遂行する必要がある。天才的中間管理職であるカウフマンは、“世界(ワールド)”へと向かう。究極の無理難題を果たすため、誰ひとり話を聞いてくれないだけでなく、お互いに信頼もないメンバーの間をとりなし、なんとか全員にやる気を出させ、秘密を守り、目的を達成する。お涙ちょうだい物語である。
 また、前作ではわかりにくかった「プロバビリティ」についても、量子論、究極理論などを背景にしながら、新たな宇宙理論として統合されていく。その新たな「発見」の物語でもある。
 ちなみに、本書の宇宙論については、「エレガントな宇宙」(ブライアン・グリーン)にヒントを得ているとある。「一般向け」に超ひも理論を軸にした最新の宇宙論を解説した本で、草思社から翻訳出版されている。私も買って読んだが、たしかにおもしろい、けど難しい。それでも、流し読みしておくと、本書「プロバビリティ・サン」のような話を読む際にちょっとはわかりやすくなる。
 まあ、そういう科学的な理論のところはすっとばしてもおもしろく読めるエンターテイメントSFなので、安心して欲しい。






(2008.12.31)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
(スパム防止のため、全角表記にしています。連絡時は、半角英数にてお願いします)

作家別テーマ別執筆年別
トップページ