はるの魂 丸目はるのSF論評
プロバビリティ・スペース
PROBABILITY SPACE
ナンシー・クレス
2002
ナンシー・クレスの「プロバビリティ」シリーズ第三弾で完結編である。人類とフォーラーの戦争は宇宙を崩壊させる究極兵器をお互いが持ってしまい膠着状態。人類側は軍内部でクーデターが勃発。前作で新たな物理学の地平線を開いた物理学者カペロは誘拐され、娘のアマンダは誘拐現場を目撃してしまったために「誰も信用できない」状態で、一緒に「ワールド」に旅をしたマーベットを探して流浪の旅に出る。一方、マーベットは、前作で中間管理職のパワー全開だったカウフマン君と一緒。カウフマン君は、ワールドの共有世界を崩壊に追い込んだことについて自責の念でいっぱい。なんとかワールドに行こうとする。行ってどうなるものでもないだろうが…。
さらに、誘拐されたカペロの幽閉先にたまたま遭遇してしまった少年は殺され、その母で大金持ちの策士、女スパイにして男たらしのマグダレナは、息子がカペロとともに誘拐されたままであると確信してカペロを追い求める。
父カペロを案じ、カペロを探すためにマーベットを求めて地球、月、火星での様々な事件に巻き込まれるアマンダ。
息子を捜すためにカペロの居場所を求めるマグダレナ。
さらに、何かを求めるカウフマンと、現実をしっかり把握しているマーベットのカップル。
クーデターを起こしたピアース大将は、宇宙が崩壊する可能性を理解する能力がなく、究極兵器をフォーラーの母星に近づけようとする。
軍を退職し、中年の自分探しの旅に出るカウフマン君パート。典型的な少女巻き込まれ旅と事件の成長期ものとなったアマンダのパート。そして、背景に横たわる宇宙崩壊の可能性。
果たして、どうなる、この宇宙。
前作2作は「ワールド」のおもしろさが際だっていた。本作は、世界観もキャラクターも頭に入っていることだから、素直に楽しめばよろしい。
それにしてもナンシー・クレスは登場人物に愛着がない。平気でいじめていく。その典型がカウフマン君である。前作では、ちょっとしたヒーローだったのに、軍を辞めたとたん、役立たずの、自分で何をしていいのかわからない大人になりきれていなかったおじさんの扱いである。かわいそう、と思うあたり、筆者もおじさんだからか。
もちろん、前作と違って、本作では少女アマンダの成長の旅がある。出会いあり、別れあり、裏切りあり、信頼あり、冒険あり、機転あり、恋愛ありの、これぞ少女成長ものといったところである。
中年のおじさんも安心して読んで欲しい。
キャンベル記念賞受賞作品
(2009.03)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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