はるの魂 丸目はるのSF論評
太陽の中の太陽
SUN OF SUNS
カール・シュレイダー
2006
気球世界ヴァーガシリーズの第一作目である。帯の釣書は「リングワールド以来の破天荒な世界」である。まさしく。時は遠い未来。何らかの泡というか、膜というかに包まれて外の宇宙と隔絶した世界が用意されている。そこには人工の太陽がある。大きな重力を生み出すほどの質量はない人工の核融合太陽である。ひとつではなく、たくさんの太陽がある。大きな太陽がある中心の世界はキャンデスと呼ばれているが、このヴァーガの世界にはたくさんの小さな太陽があり、その光の周囲に小さなコロニーや衛星の居住地がある。ヴァーガの世界には空気があり、窒息して死ぬことはない。重力はとても微少。太陽の大きさやコロニー群の軌道によって世界の勢力分布は変わる。中心世界キャンデスは、その光の大きさ、安定性によって強国となり、世界を統べる。しかし、周辺にはそれぞれに太陽があり、その恩恵で生きる人々がおり、国が成立する。太陽を持つものが国を興し、世界の中の勢力となることができる。しかし、時に世界はきまぐれである。それぞれのもつ軌道によって他の世界と近づき、分かれる。そのたびに、侵略や併合が起き、力関係は変わっていく。光の届かない場所は、冬空間と呼ばれる。人が住むには厳しい世界だ。そして、ほとんどの空間が冬空間である。
さて、内側の世界があるということは外の世界もある。間違いなく。どうやれば外に出られるのか、そもそも外の世界がどういう世界なのか知るものは少ない。気にしていないともいえる。
太陽など一部の技術を除けば、この世界は大航海時代や第一次世界大戦前の世界に似ている。
群雄割拠の世界である。
ここにひとりの少年ヘイデンがいる。ヘイデンの母は太陽技術者だった。父は小国エアリーの独立を望んでいた。エアリーは太陽を作ろうと画策していた。支配者である大国スリップストリームから独立するために。しかし、その独立は果たされず、両親は殺され、ヘイデンは孤独のままに生きていくこととなった。両親を殺したスリップストリームの提督への復讐を誓って。
そのヘイデンが、スリップストリームの提督の妻に雇われ、提督が率いる艦隊に乗りこんで冒険の旅に出ることとなった。スリップストリームを守るためか、提督を殺す機会をうかがうためか、それとも、同行することになった外世界から来た美女と一緒にいたいためか、ヘイデンは悩みながらも戦い、生きのび、成長していく。そして、何かを得、何かを失う。大人になっていくのだ。
まさしく破天荒な世界を舞台に、バロック調のストーリー展開。フィリップ・リーブの「移動都市」シリーズなどが好きな人にはおすすめな一冊である。
(2009.03)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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