はるの魂 丸目はるのSF論評


ベガーズ・イン・スペース
BEGGARS IN SPAIN AND OTHER STORIES

ナンシー・クレス
2009



「プロバビリティ」シリーズ三部作が一気に翻訳されたナンシー・クレスの短編集である。「プロバビリティ」シリーズで登場した「共有世界」のアイディアが登場した「密告者」をはじめ、7作品が掲載されている。このうち、表題作「ベガーズ・イン・スペース」と「眠る犬」は、ナンシー・クレスを有名にした無眠人シリーズである。表題作は、その後長編化され、三部作となっているようだ。
 無眠人とは、眠ることのない人のこと。遺伝子操作で生まれた眠る必要のない子どもたち。知性に恵まれ、健康で、精神的にも安定し、極めて高い生産性を持つ。それゆえに、普通の人たちからのねたみを買い、やがて迫害されていく。ミュータント、超能力者迫害ものの変奏曲である。不老不死、超能力など、理由なき超人に変わって、遺伝子操作という「科学」が導入されてSFの中心に戻ってくることとなった。
「ダンシング・オン・エア」もまた、遺伝子組み換えによる能力改編をベースにした作品。クラシックバレエが、その舞台となる。
 個人的に好きなのは「戦争と芸術」。異星人との戦争を続ける人類。敵の基地を確保した人類の軍は、芸術に詳しい専門家を敵の基地に送り込む。異星人が人類の居住エリアを襲って収集した物品の中から貴重な芸術品を回収するためである。芸術作品だけでなく、バスタブや子どもの靴など様々なものが収集され、異星人にしか分からない方法で配列されていた。人間の専門家は、そこから何かを読み取ろうとする。なぜ、異星人はこれらを集め、このように並べたのか…。

 とても短い作品から、中編といえる作品までいずれも読みやすく、満足できる。「プロバビリティ・ムーン」の最初のとっつきにくさに比べれば、最初に短編集を読むのはクレスを知るのにいいかもしれない。

本短編集は、日本独自編集だそうだ。表題作「ベガーズ・イン・スペース」は、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、アシモフ誌読者賞、SFクロニクル読者賞受賞作品。つまり傑作である。


(2009.04)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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