はるの魂 丸目はるのSF論評


ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを
GOD BLESS YOU, MR.ROSEWATER

カート・ヴォネガット・ジュニア
1965



 そうかあ、本書「ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを」が書かれたのは私が生まれた年かあ。つまり、今から44年前。読んだのが二十歳の時、1985年。バブル経済直前の大学生である。「逃走論」とか、「ニューアカ」とか、「新人類」とか、なんだか社会全体が浮かれていて、学術方面もかなり浮き浮きしていた、そんな時代である。
 そうすると、こういう作品がもてはやされて、読むことになる。村上春樹や村上龍の時代でもある。ところで、本書にはSF作家「キルゴア・トラウト」が初登場する。キルゴア・トラウトの作品がいくつか紹介されたり、主人公のエリオット・ローズウォーターが、SF大会に酔っぱらって登場し、演説するシーンがある。それをもってSFとすれば、本書はSFであるが、どう考えても、本書「ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを」はSFではない。でも、早川文庫SFから出ている。なぜなら、カート・ヴォネガット・ジュニアの読者は、カート・ヴォネガット・ジュニアをSF作家として読み、日本ではSF作家として評価されているからである。もし、SF作家として、早川文庫SFから出ていなかったら、本書を読むことはなかったであろう。よかったのか、悪かったのか。
 SFでなければ、ここでいろいろ書き連ねることは、おかしいのだが、カート・ヴォネガット・ジュニアをSF作家として位置づければ、SF作家の作品として書いてもおかしくはない。書かないのも変になるから。
 まあ、そういうことはどうでもいいことに分類されるわけだが、世の中のたいていのことは、どうでもいいことに位置づけられる。たとえば、いま、私は、自宅のメインパソコンがクラッシュしてしまい、なんとかOSを復旧させようとあの手この手を試しつつ、サブのノートパソコンでこれを書いているのだが、もし、パソコンがクラッシュしていなければ、別の仕事をしていたであろうし、別の気分でいられただろう。さらに、どうもハードディスクがクラッシュしているようで、復旧がうまくいかず、OSをクリーンインストールして再構築するか、今はあきらめて新しいハードディスクを購入するかの選択が近づいているような気がしている。
 こんなことは、世の中よく起きていることで、便利になったのだか、不便になったのだか分からない気持ちになるが、総じて言えば便利になったのかも知れない。便利になったからと言って幸福になったのかと言えば、必ずしもそうは言えないわけで、豊かな国日本の国民の何割かは確実に生活が苦しくなっており、あまり日々幸せとは言えない人もいる。それでも、日々笑ったり、泣いたりはしているわけで、人間はどんな状態でも生きていける(はずだ)。
 持つもの、持たざるものに関わりなく、他者と関わりを持つことで、生きていける。大金持ちのエリオット・ローズウォーターは、他者と関わりを持つ何かになりたかった。そういう物語である。SF。ローズウォーター財団というものはおそらく架空の存在だし、SF作家キルゴア・トラウトが誕生した意味では、本書はSFである。そういうことにしておこう。


(2009.08.09)

TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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