はるの魂 丸目はるのSF論評
プランク・ゼロ
VACUUM DIAGRAMS(THE XEELEE CHRONICLE 1 PLANCK ZERO)
スティーヴン・バクスター
1997
スティーヴン・バクスターの代表的シリーズ、ジーリー年代記は、長編の「天の筏」「時間的無限大」「フラックス」「虚空のリング」と、複数の短編で構成されている。本書「プランク・ゼロ」と「真空ダイヤグラム」は、短編を年代記別に並べ、間をつなぐ物語を置いた「真空ダイヤグラム」を日本で二分冊にしたものである。短編集のはじまりは、3672年の「太陽人」にはじまる。太陽人と言っても、太陽の中に住む人のことではない。太陽人とは、ある知的生命体が我々を呼ぶ言葉である。そのある知的生命体とは…。
この短編集には、「虚空のリング」に登場する「人の心を持った人工知能」リゼールが登場する。この短編が「虚空のリング」の一部の下敷きでもある。その後、本書「プランク・ゼロ」に記述はないが、「虚空のリング」の主人公たちが未来への旅に出かけ、時間軸に残った多くの人類は、未来からの予告通り、スクィームに侵略される。4874年の「パイロット」は、スクィームに侵略されはじめたばかりの太陽系での逃亡者を描く。その後、スクィームの支配に打ち勝ち、再び人類は拡張、そうしてクワックスに出会い、軽々と支配されてしまう。クワックスの支配については、「時間的無限大」で描かれているが、そこではクワックスを滅亡に近い状態に追い込んだ人間の物語に触れられている。それこそが、5406年の「青方変異」である。
クワックスの支配を逃れた人類は、拡張の時代を迎え、やがてジーリー以外の知的生命体の頂点に立っていく。
その過程で出会ったのがシルヴァー・ゴーストと人類が呼ぶ種属である。彼らは、彼ら独自の理論でジーリーの干渉を受けかねない宇宙規模の実験を繰り返していた。この短編集の作品をつなぐのが、シルヴァー・ゴーストに対しての人類側大使ジャック・ラウールと、その死んだ妻イブの物語である。それは、5664年にはじまる。「プランク・ゼロ」は、その物語の直前、5654年の表題作「プランク・ゼロ」で終わる。
この短編集は、「時間的無限大」や「虚空のリング」を読んでいるとジーリー年代記宇宙の背景をすんなり受け入れられる。もちろん読んでいなくてもひとつひとつの物語が充実している。その作品も「宇宙」と「生命」を感じさせる壮大な物語を予感させる。
(2009.09.05)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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