はるの魂 丸目はるのSF論評


マラコット深海
THE MARACOT DEEP

コナン・ドイル
1929



 先日、本屋で「マラコット深海」が売られているのを見かけた。手元にあるのは1976年の第38版。初版が1963年である。まだ売り続けられているとすると、いったい第何版なのだろうか。手元の本は、表紙さえないので、いったいいくらで買ったかさえ分からない。薄い本なのでたぶん、200円前後ではなかろうか。中学生の頃だから、安かったから買ったというのが本当のところだろう。コナン・ドイルといえば、シャーロック・ホームズシリーズだが、私はアルセーヌ・ルパン派であったので、読んではいたけれど、ホームズはあまり好きではなかった。そのドイルの作品である。いま、あらためてあとがきを読むと、この「マラコット深海」がドイルの遺作であるという。彼は4冊の空想科学小説を書き残し、このうち「マラコット深海」以外は同じ主人公の作品群である。
 ストーリーは簡単で、未知の世界である深海にマラコット博士と「ぼく」サイアラス・ジェイ・ヘッドリー、それにメカニックのビル・スキャンランの3人が、深海探査船に乗りこんで調査に向かう。巨大なカニのような生物に襲われ、あえなく深海に落ち行く3人。しかし、そこには、かつてアトランティス文明を築いた人たちが生き残って暮らしていたのだ! そこで出会った数々の驚異。そして、その顛末は地上にも伝えられることとなった。
 コナン・ドイルは、第二次世界大戦前夜、大恐慌前夜に亡くなったのだな。夢と希望にあふれている。地球に「未知」があふれていた時代の作品である。
 しかし、本作品が発表されてから80年、私たちは地球のことを分かったような気になっているが、実は深海はまだまだ未知の世界である。海だけでない、月だって知らないことだらけだ。月の裏側に「水」があることはつい先頃確認されたばかりである。簡単に「冒険」はできないけれど、フロンティアはまだあるのだ、そんな気持ちにさせられた。


(2009.10.10)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
(スパム防止のため、全角表記にしています。連絡時は、半角英数にてお願いします)

作家別テーマ別執筆年別
トップページ