はるの魂 丸目はるのSF論評
ユービック
UBIK
フィリップ・K・ディック
1969
「みなさん、一掃セールの時期となりました。当社では、無音、電動のユービック全車を、こんなに大幅に値引きです。そうです、定価表はこの際うっちゃることにしました。そして−忘れないでください。当展示場にあるユービックはすべて、取り扱い上の注意を守って使用された車ばかりです」
というリードからはじまる本書「ユービック」。
舞台は、「1992年6月5日の夜」にはじまる。登場人物は、ホリス異能プロダクション所属の超能力者による企業などの被害を防ぐ、ランシター合作社のメンバーたち。超能力を無能力化したり、反能力で防ぐことができるのだ。そして、もうひとつの舞台は、安息所の半生者たち。死んですぐ、冷凍し適切な処置をすることでその脳活動を残すことができる。長いゆるやかな夢のような世界に存在し、時折、現実の遺族から呼び出されてはコミュニケーションをとる。
ランシター合作社のメンバーは、ある策謀によって事故に巻き込まれる。社長のランシターが死に、メンバーたちは不可解な現象に遭遇する。硬貨の顔がランシターに代わり、タバコが、エレベーターが、どんどん古い物に変わっていく。急速に時代をさかのぼるかのような動きが起きる。現実が、現実を失い、時間をさかのぼっていく。
そして、ユービック。それは、薬? それはスプレー缶? 何?
果たして、ランシターは生きているのか? 死んでいるのか?
果たして、自分たちは生きているのか? 死んでいるのか?
安息所の半生者というシステムが、彼らに混乱を与えていく。
疲れ切ったときに読むといい。現実感を失いかけているときに読むといい。今の時代のように、人間のミスや余裕、あそびを許さない中で、殺伐としているときに読むといい。
現実のあやうさを思い知ることができるから。一度思いっきり現実を解体し、そうして、もう一度現実に戻ってきて、足を地面に踏みしめるといいのだ。
ユービックは意外と身近なところにころがっている。
(2010.01.14
)
(2009.10.31)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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