はるの魂 丸目はるのSF論評
アードマン連結体
THE ERDMANN NEXUS AND OTHER STORIES
ナンシー・クレス
2010
ナンシー・クレスの短編集である。書かれているのは、ナノテクによる物質製造器がもたらした社会の混乱と変化、ちょっとしたタイムスリップ小咄、21世紀スタイル「幼年期の終わり」、軍に入った少年の成長譚、耐性菌によるパンデミック、子どもの虐待と精神、人工生命体の進化、そして、老化と死をテーマにした「齢の泉」。
人は何に執着して生きるのか? なぜ生きのびたいと思うのか、死にたくないと思うのか、幸せに生きるとはどういうことなのか?
ひとつひとつ、SFとしてのガジェット、プロットは異なり、連作的な要素はまったくない。本当の「短編集」である。
表題作「アードマン連結体」を除けば、SFとして「難しさ」を感じさせる要素もない。SF的要素がほとんどない作品もある。共通することといえば、「現代」の問題であるということだ。虐待、パンデミック、高齢化社会、技術による急激な社会の変化と混乱など、同時代的なテーマをSFとして外挿し、語っている。
どの作品も、小説として起承転結が効いていて、とても読みやすくおもしろい。
私は、「齢の泉」を気に入っている。主人公が生涯を振り返りながら、かつ、「最後の」一仕事に邁進する、その過程で出てくる友人、パートナー、敵、その知人、パートナー。中編にも関わらず、ひとりひとりの個性が生きていて、登場人物の「行動」に感銘を受けたりする。主人公だけが小説の登場人物ではないことを教えてくれるいい小説である。
「プロバビリティ」シリーズでは、登場人物のおもしろさが長編故に目立たなかった。また、筋立ても難しかったのだが、短編集になるとがぜん、登場人物の描写が生きている。
SFが嫌いな人でも読んで欲しい、いい小説集である。
(2010年5月16日)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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