はるの魂 丸目はるのSF論評


天空のリング
SINGULARITY'S RING

ポール・メルコ
2008



 地球の周りにはリングがある。人類が建造した最大の構造物。60億人の人類がそこに暮らし、リングのインターフェースによって、人工知能とともに接続した人類全体とつながって「共同体」を形成していた。「相乗的な人間/機会知性」である。その夢のような世界は、やがて悪夢に変わる。接続していなかった地球上に住む人たちとって、リングと接続していた人類は皆死んでしまったのだ。突然に、あっという間に。残された人たちの多くは、彼らが特異点を迎え、海王星軌道のすぐ先に「裂け目」をつくり、そこからどこか遠く、時空の彼方に向かったと考えられていた。
「共同体」が行ってしまった後、世界は混乱し、立ち直るためには長い時間を要した。世界は再び立ち直るが、人工知能を含め、様々な技術が失われていた。その中で、世界の発展の中心を閉めたのが、ポッド達である。ふたりで、3人が組となり、手首のパッドから放出される化学物質の「におい」によって思考や記憶、感情を共有し、「ひとり」の思考体を形成する。ひとつの頭に2つの身体、3つの身体、である。もちろん、ひとりひとりも思考し、感情を持ち、記憶し、行動するが、彼らは近くにいてこそ、真の知性体であり、存在になれるのである。集合知性体である。
 主人公、アポロ・パパドブロスは、この世界でもめずらしい5人組のポッドである。宇宙探査のために特別に集められ、育てられた5人組ポッド達のひとつ。最終選抜期間のまっただ中にあった。

 本書「天空のリング」は、主人公、アポロを構成する5人のそれぞれの「ひとり語り」で物語が語られる。ひとりであり、5人でもあるが故の表現方法。力持ちで優しい大男のストロム、アポロの「言葉」であり、フロント役の女性メダ。世界を数学で見ている女性のクアント、宇宙空間や無重力での作業ができるよう、足が手のように身体改変して生まれた男性のマニュエル、それに、アポロの「心」というか、精神的統一を司る、メダの一卵性双生児モイラ。この5人それぞれの性格と、行動。アポロとしての行動。うーん、深い。

 よくこんなこと考えつくよな。ヴァーナー・ヴィンジの「遠き神々の炎」では、音で共同知性体を構成する犬に似た集合知性体が登場するけれど、それの人間版だ。

(2010.08.25)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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