はるの魂 丸目はるのSF論評


鼠と竜のゲーム
THE BEST OF CORDWAINER SMITH

コードウェイナー・スミス
1975



「人類補完機構」である。アニメ「エヴァンゲリオン」でこの表現が有名になり、釣られてコードウェイナー・スミスの作品にも注目が集まったり、集まらなかったりした。「ノーストリリア」を除いては基本的に短編作品群であり、長編を選んで読んでいて関係で、再読し、感想を書くのを延ばし延ばしにしてしまった。とても好きな作家であり、今も比較的入手性が良いことは嬉しい限りである。
 作品だけでなく、作者としてもエピソードに満ちており、女性であるジェイムズ・ティプトリーと並んで、特異な作品世界と魅力的な作者としてSFの歴史には欠かすことができない。
 本書「鼠と竜のゲーム」は、8つの作品の短編集であり、「人類補完機構」ものとして知られる。作品は、1950年から64年に書かれたものであり、まだ、ニューウェーブやサイバーパンクが登場する前である。

 内容だが、「エヴァンゲリオン」を彷彿するところはひとつもない、ということを強調しておきたい。いや、ないわけではない。共通するところと言えば、説明もなしに、特異な単語が飛び交うところぐらいか。ただし、アニメと違い小説であり、長い長い宇宙史、人類史として書かれているので、その歴史の中で「伝説」が生まれ、歪曲され、「歌」や「詩」や「物語」として描かれているため、「エヴァンゲリオン」の「謎解き」とは違っている。

 コードウェイナー・スミスの「人類補完機構」のすごさは、別の世界の別の歴史の物語を、あたかも同時代小説であるように書き、かつ、別の世界の住人である我々(読者)に、読ませる力を持つことである。作者が独自の世界観を作り上げ、独自の用語、独自の歴史、エピソードを作品中に書くことはよくある。これはとても難しいことで、ちょっとでも書きすぎると、作者のひとりよがりで、読者を置き去りにするか、まったくの駄作となってしまう。作者が、独自の世界観を確固たるものとして自分の身につけ、そして、別世界の住人である我々への翻訳者として作品をしたためる。すごい力量である。

「星の海に魂の帆をかけた女」で、主人公ヘレン・アメリカの真実のエピソードを知る喜び。
「ママ・ヒットンのかわゆいキットンたち」で、ノーストリリアの防衛の真の秘密を知る喜び。
「アルファ・ラルファ大通り」で、ク・メルに出会える喜び。
 他の作品群と続けて読むことで、コードウェイナー・スミスが住む世界を知ることができる。だから、まとめて「シェイヨルという名の星」「ノーストリリア」「第81Q戦争」を読むことをおすすめしたい。強く。

(2010.11)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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