はるの魂 丸目はるのSF論評


シェイヨルという名の星
THE BEST OF CORDWAINER SMITH

コードウェイナー・スミス
1975



「鼠と竜のゲーム」と対をなす、スミスの短編集であり、「人類補完機構」シリーズをまとめた本である。4作品が収められており、いずれも傑作と言える。

「クラウン・タウンの死婦人」で、犬娘ド・ショーンの真の物語を知ることができる。それは、私たちの知る人類創世記の歴史で言えば、フランスにおけるジャンヌ・ダルクを思わせる存在。人間に似せて作られた下級民たちにとっての自由のシンボルとなる。

「帰らぬク・メルのバラッド」では、猫娘ク・メルが描かれる。「ノーストリリア」でも登場するク・メル、その人である。ク・メルの物語は数限りない。真の愛はどこにあったのか、それを知るものはいない。

表題作「シェイヨルという名の星」は、手塚治虫の火の鳥宇宙編を思わせる。もしくは地獄。それを地獄と呼ばずして、何を地獄と呼ぶのだろう、という物語。

真実は伝説となり、伝説は物語を、詩を、歌を生む。

伝説も、物語も、詩も、歌も生まれないような出来事は、時代は、真に殺伐とした時代に相違ない。ある男の、ある女の、ある存在の伝説が生まれてこその同時代である。

小惑星イトカワを探索した無人小惑星探査機「はやぶさ」の物語は美しい。はやぶさは、現代の日本の伝説となり、物語を、詩を、歌を生む。しかし、それは人ではない。

伝説の人が生まれないものか。

(2010.11)




TEXT:丸目はる
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