はるの魂 丸目はるのSF論評
幻影の都市
CITY OF ILLUSIONS
アーシュラ・K・ル・グィン
1967
ル・グィンのハイニッシュ・ユニバースに属する作品群のひとつ。「辺境の惑星」の続編と言ってもいい。しかし、舞台は地球。アンシブルが事実上失われた世界。地球には1200年も、異世界からの訪問者はいないとされている。地球は、シングと呼ばれる存在に支配され、人々は、武器を奪われ、通信手段を奪われ、小さな集落単位で、ヨソモノを嫌って生きている。シングが地球人なのか、それとも、世界を崩壊に陥れた異星人なのかさえも分からない。いくつかの科学技術は残り、いくつもの技術が失われ、再発見されていた。彼らは口伝でシングの悪意を伝え、シングの目を逃れつつ、世界のかつての栄華を伝承していた。
そこに、異星からの大人が落ちてきた。黄色い目をした人である。
記憶を失い、言葉を失って。
誰もシングを見たものはいない。彼はシングの種属なのか、単に異星の人なのか。
それは分からなかったが、死を与えることはしなかった。
異邦人を助けた種族は、彼を赤子のように教育することとした。
しかし、5年が過ぎ、精神的に赤子から「大人」になった男を、そのまま土地に残して置くわけには行かなかった。男は、世界の中心をめざして旅に出ることとなる。その過程で、真の自分を探しながら…。
世界と自分を探す物語である。「ゲド戦記」にも似た、しかし、ハイニッシュ・ユニバースに属する正統的なSFである。ル・グィンは、世界と精神を再構築する力に長けている。
それにしても、今回、初読みなのだが、宇宙から記憶を失って男が落ちてくる。辺境の未来世界…、どこかで読んだなあと思って記憶をたどったら、デイヴィッド・ブリンの知性化の嵐シリーズ第1弾「変革への序章」でほぼ同じ状況が出てきた。こちらは1995年の作品である。
空から異人が落ちてくる。物語の基本である。
そして、「辺境の惑星」を読んでいると、ちょっと楽しいオチがある。
読んでいなくても、十分楽しめるが。
(2010.11)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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