はるの魂 丸目はるのSF論評
歌う船
THE SHIP WHO SANG
アン・マキャフリー
1969
人工的な装置なしに成長が見込めない新生児。脳波計によって可能性が見いだされたら生き延びることが許される社会。ヘルヴァは、その適合力、知力をもって中央諸世界における特別な存在「殻人間」として育てられた。殻におさめられ、宇宙船のあらゆるセンサーやコンピュータと接合された「頭脳船(ブレインシップ)」として訓練された。頭脳船は宇宙空間を自由に航行することができる、その権限は、後ろ盾となる中央諸世界そのものによる。管理された殻に収まることで、非殻人には考えられない長命ともなった。しかし、脳たる彼らは動くことができない。故に、中央諸世界は、ブレインに筋肉(プローン)を用意した。頭脳船のブレインのパートナーとなり、彼らの手足となってともにミッションをこなす存在。選択権はブレインにあるが、一度決めたら、罰金を払わない限り、解消することができない存在。夫婦にも似た、家族にも似た、親子にも似た、互いに互いを必要とする存在。そして、物理的に触れあうことの許されない存在。
ヘルヴァは優秀な頭脳船となり、最高の相性のプローンを得た。もうひとつ、ヘルヴァは、中央諸世界に早々に名をとどろかせた。「歌う船」として。ただの音声器官であるスピーカーを使い、古典から創作まで彼女は美しく、人の心を打つ歌を歌い、音楽を奏でた。
歌と、プローンとともに、ヘルヴァは成長し、喜び、傷つき、悲しみ、そして、生きる。
本書「歌う船」は1961年に最初の短編が発表され、その後、1966年に2本、1969年に3本の短編が発表、6本がオムニバス短編として1冊の長編となっている。「歌う船」である少女ヘルヴァの成長と恋の物語である。肉体的なふれあいはなくても、そこには確かな恋があり、愛がある。恋と愛には歌がつきものである。もちろん、冒険も。
「歌う船」で生み出された殻人間(シェルパーソン)と筋肉(プローン)のパートナーという設定は、たくさんの作家を魅了した。そして、「歌う船」はシリーズとなり、若手の作家達が共作の形で作品に深みを添えていく。そんなSF界にとっても記念すべき作品である。
(2010.12)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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