はるの魂 丸目はるのSF論評


戦う都市
THE CITY WHO FOUGHT

アン・マキャフリー&S・M・スターリング
1993



「歌う船」シリーズ第3弾、原書発表順では、「歌う船」「友なる船」「旅立つ船」に続く第4弾となる本作「戦う都市」は、その名の通り頭脳船が主人公ではなく、辺境のスペースステーションSSS−900の頭脳であるシェルパーソンのシメオンが主人公となる。「友なる船」「旅立つ船」でもちょっとだけ登場していたが、初の男性である。しかも、若々しい新人ではなく、何十年もキャリアを積んだちょっと気難しい軍事戦略ゲームおたくのおっさんである。長年連れ添ったパートナーの男性を亡くし、新たに若いパートナーがプローン(筋肉)としてやってきた。どうにも相性が合いそうにないが、そこはそれ、経験を積み、ステーションを切り回すという人間関係にも長けたブレインである。うまくやっていこうと、それなりの努力をはじめた矢先、身動きの効かないスペースステーションSSS−900に事件が起った。深辺境の空間より非道な海賊船団が迫ってきたのだ。中央諸世界の軍が救出に来るまでは長い時間が必要になる。それまでステーションのクルーや滞在者が殺されず、かつ、ステーションを破壊されないようにしなければならない。まして、ステーションがシェルパーソンによってコントロールされていることを知られれば、シメオンそのものが格好の略奪品となりかねない。
 シメオンとプローンの史上最大の作戦がはじまった。

 マキャフリーの作品の主人公はたいていの場合、女性であることが多い。「パーンの竜騎士」シリーズでは時々男性が主人公になるが、それ以外は、元気で、自立して、ちょっと気の強い、そして、時にはファザコンみたいな女性が出てきて、活躍する。大人の女もいれば、少女もいる。少女から大人までの成長譚もある。「歌う船」シリーズでも、主人公のシェルパーソンは女性のことが多い。しかも少女。成長譚である。ところが、本書「戦う都市」の主人公はおっさん。若い仕事上のパートナーに手を焼き、やんちゃな子どもにも手を焼く。手を焼くけれど、このおっさんのいいところは、基本的に落ち込まないところ。いつも明るく、何とかしようとする。基本的に前向き。社交的。
 私ももはや日本の古典で言うところの「初老」。おっさん視点に学ぶところは多い。

「歌う船」シリーズでは異色中の異色だが、個人的なおもしろさでは随一かもしれない。

(2010.12)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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