はるの魂 丸目はるのSF論評


友なる船
PARTNERSHIP

アン・マキャフリー&マーガレット・ベル
1992



 アン・マキャフリーの代表作のひとつ「歌う船」が共作者を迎えて還ってきた。その第一弾となるのが本書「友なる船」である。時は「歌う船」ヘルヴァから200年。主人公のナンシアも、ヘルヴァ同様、16歳を迎え、実験学校を卒業し、中央諸世界の頭脳船をコントロールする殻人(シェルパーソン)となって、初ミッションを待つ立場となっていた。まだ、非殻人の筋肉(プローン)も選んでいないのに、異例の初飛行をすることになった。乗客は5人。いずれも華族(ハイファミリー)の子弟達。新卒で、新しい仕事に就くところであり、彼らを送る仕事が割り当てられたのだ。ナンシアもまた、生まれは華族。ただ、身体に不具合があり、そのままでは生きられなかったため殻人への道を生きることになったが、ナンシアの父は、ナンシアを見捨てることなく、華族の一員としてナンシアに接してきた。
 女性2人、男性3人のナンシアよりは数歳年上の華族が、ナンシアの船に乗り込んできた。いずれも名門の出なのに、いずれも辺境に着任することとなった。その理由は? 出発して早々に、ナンシアは彼ら5人の忌まわしい秘密と忌まわしい約束の一端を知る。しかし、事もなく、5人を送り出し、そして初めてのプローンを得た。ナンシアの日常、仕事がはじまる。
 やがて、辺境で事件が起き始める。
 ナンシアは初飛行の5人の華族を忘れられない。彼らが事件の裏にいる。しかし、航行中のプライベートな事実を人に伝えるわけにはいかない。華族としての責任感、頭脳船としての倫理観、悩みながら、ナンシアはミッションに立ち向っていく。
 これもまた、船の成長譚である。他の作品に比べれば「恋愛」色は薄い。すなおな少女成長譚という感じである。それだけにストーリー展開がポイントである。主人公が動ける人間ならばハードボイルドものになりそうだが、主人公が「船」であるところに、ひねりの妙味がある。
「歌う船」シリーズの設定のおもしろさである。

(2010.12)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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