はるの魂 丸目はるのSF論評
魔法の船
THE SHIP WHO WON
アン・マキャフリー&ジョディ・リン・ナイ
1994
歌う船シリーズの第5弾は、キャリエルとケフのコンビ。キャリエルはかつて事故に巻き込まれ、宇宙空間で隔絶された経験を持ち、それゆえに大監察官によって心理的に不安定であるとして、「船」勤務からの解除を迫られ続けてきた。キャリエルはリハビリ期間中に「絵を描く」ことを覚え、その絵は高く評価されていた。キャリエルとケフは、異星探検局に属し、新たな知的生命体を探す長期探査を仕事としている。筋肉(プローン)のケフの趣味は、「神話と伝説」。ぶっちゃけて言えば「剣と魔法」のロールプレイングゲーム。長期の航行中、キャリエルが作り出すゲーム空間で冒険し、戦い、勇者となる。
そのふたりが探索した新たな星系の惑星には、ほぼ人類型の知的生命体が暮らしていた。しかも、類縁と見られる2種類。なんと支配種属は、「魔法」を使うのだ。
「魔法」の力に翻弄されるキャリエルとケフ。絶体絶命!
「パーンの竜騎士」のマキャフリーである。「魔法」が出てきても、それはファンタジーの魔法とは異なる。必ず「科学的な根拠」があるはずだ。たとえ魔法使い側が、自分たちがふるう力は魔法だと信じていても。
かのアーサー・C・クラーク氏は言った「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない」と。まさに、まさに。GPSを利用したカーナビや位置情報確認システム。SUICAなどの電子記録式のプリペイド決済システム。インターネットによる放送、通信、無線が統合された情報記録、伝達システム。太陽光発電、高断熱窓、ヒートポンプなどの新エネルギーシステム。ちょっと前の私にさえ、魔法と区別がつかない。ただ、時系列的につきあっているので「驚き」が少ないだけである。
それにしても、絨毯が飛び、杖から火花を飛び出させ、テレポーテーションまでされれば、それは理屈はともあれ魔法でしょう。ということで、頭脳船&筋肉のリアル世界と魔法使いの支配するおとぎの国という不思議な組み合わせでキツネにつままれた気分を味わえる作品となっている。
これも「歌う船」シリーズの世界設定がしっかりしているからこそできるのだろうなあ。
(2011.2.1)
TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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