はるの魂 丸目はるのSF論評


輝く永遠への航海
SAILING BRIGT ETERNITY

グレゴリイ・ベンフォード
1995



「木星プロジェクト」「星々の海をこえて」地球時代。ナイジェル・ウォームズリー。
「大いなる天上の河」「光の潮流」遠未来。キリーン、トビー。ビショップ族。
「荒れ狂う深淵」「輝く永遠への航海」時間の果て。ナイジェル・ウォームズリー、トビー。

 壮大な旅もようやく終わりとなる。トビーは、時間の河を下り、そして上る。それは、「ハックルベリー・フィンの冒険」につながる優雅で不思議な旅。その旅を通じて、機械知性と有機知性の戦いもひとつの終わりを告げる。それは終わりなき終わりである。和解でもない、解決でもない、終結でもない。

 最後に、年表がつけられている。西暦で言えば37000年を過ぎていた。35000年にも及ぶ、人類の宇宙での旅が終わる。それをずっと見続けることとなった古代人ナイジェル・ウォームズリー。彼は、何を、思う。

 このシリーズを読んでいたのは、2011年2月から4月の間。3月11日は、「光の潮流」あたりを読んでいたような気がする。地球がぐらりと揺れて、海の水が陸に溢れてきて、たくさんの人が死んだ。私は東京にいて、ラジオを聞きながら、原発事故の発生に恐怖していた。まだ、水素爆発も、ベントもされていなかったが、全電源停止の意味は、すぐに理解した。世界はあっという間に変わる。もし、この震災に原発事故の影響がなかったら、どうだったろう。もちろん、それでも3万人近い人たちが亡くなったことは変わるまい。しかし、もっともっと救援の手も早く、政府も、民間も、個人も、被災者も、ボランティアも動きが早かったに違いない。原発事故によって、人の手が、頭が、取られてしまった。地震は、いくつかの大きな余震と、それから、今後、各地で大規模な地震が起きる可能性を高めたが、ひとつひとつには対応できる。しかし、原発事故は、50日以上経った今でさえ、綱渡りであり、放射性物質の放出は止らず、地球の海を、空を、土を汚し続け、私たちを汚染し続けている。まだ、直接放射性物質の影響で死んではないが、「確率的」に未来の誰かを殺し続ける。終わらない恐怖。正しく恐れるのは難しい。とても、難しい。
 今も、地震と津波の被災者は避難者だけで12万人を超えている。
 原発事故による避難者は、これからも増える可能性がある。
 できることをするしかない。まず、生きること。そして、共に生きること。
 未来を残すこと。自分のためだけでなく、未来をつくること。


 宇宙の果てまで、うんざりしながら、ナイジェル・ウォームズリーは、未来をつくったのだ。という物語であった。



(2011.5)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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