はるの魂 丸目はるのSF論評


シリンダー世界111
EMISSARIES FROM THE DEAD

アダム=トロイ・カストロ
2008



 宇宙の果て、というか、知的生命体が存在する星系から遠く離れている深宇宙。そこにシリンダー世界111がある。人類の平均的なシリンダー世界が長さ10km、直径2kmほど。大規模なもので、その10倍。たとえば、ニューロンドン。
 シリンダー世界111は、そのニューロンドンの長さ約1000倍、太さ約50倍。途方もない広大な世界である。しかも、普通のシリンダー世界ならば、内側の周縁部に人が暮らし、擬似重力のない中心部は空になる。ところが、111では、中心部に呼吸可能な大気があり、植物がツタのようになって世界を構築する。周辺部に行けば行くほど、大気は猛毒化し、周辺部は生存不能な別種の生態系となっている。111をつくったのは、AIソース。独立ソフトウェア知性集合体である。AIソースは、古き時代にどこかで知性を獲得し、その後、それぞれの知的種属が生み出したソフトウェアあるいは、そこで生まれたAI知性体を吸収しながら宇宙のあまたの知的生命体に、気まぐれにサービスを提供し、技術を販売し、接触を持ちながらも、超越した振る舞いをしていた。
 AIソースは、あるとき、知的生命体に111の存在を示した。111には、中心部にAIソースが生み出した知的生命体が存在する。彼らとの接触を望んだ知的生命体らの要望に応える形で、人類が外交的な調査滞在を認められた。常にぶらさがって、落ちることを意識しなければならない世界で。
 そこで、殺人事件が起きる。状況証拠から、AIソースが犯人だが、その理由はないし、人類にとってAIソースに波風を立てるわけにはいかない。必ず別の犯人を見つけ、逮捕してこい、と、ホモ・サピエンス連合外交団法務部陪席法務参事官アンドレア・コートに命が下った。実際には、別の操作事件を追え、ニューロンドンに帰還する星間輸送船の星間睡眠中に行き先を変えられ、有無を言わせず111に連れてこられたというのが現実。それでもアンドレア・コートには、断ることはできない。彼女は「連合外交団」によってその存在を守られている事実上の「奉公人」であり、「奴隷」だから。
 高所恐怖症で、自然生態系が大嫌い、人間も嫌い、自分も嫌いな、アンドレア・コートが、ついたとたんに、「実はふたつめの殺人事件が」と来た。
 特殊な環境に置かれた外交団と、ウデワタリと呼ばれるスローモーな知的生命体と、AIソースに取り囲まれ、自らの命を狙われながら、いわゆる「刑事」として真実に迫る。それは、彼女の過去をえぐる捜査ともなるのだった…。

 釣書にあるけれど「奇怪な世界を舞台に美貌の女探偵の活躍を描く傑作ハードSFミステリ」なのだろうな。おもしろいです。実際。一気読みしたし。

 カテゴリとしては、人工知性体ものになるのかなあ。状況としては、最近読んだ「インテグラル・ツリー」とも似ているかも。暮らす場所が宙づりのロープの周りなのだから、いつだって手を離せば、すべれば、ころべば、落ちちゃう世界なのだ。樹上世界でもあるなあ。映画の原作向きかも。


(2011.07)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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