はるの魂 丸目はるのSF論評


世界を変える日に
THE TESTAMENT OF JESSIE LAMB

ジェイン・ロジャーズ
2011



 バイオテロにより、妊娠すると発症し女性が死ぬウイルスにほぼ人類が感染。エイズとCDS(狂牛病、クロイツフェルト・ヤコブ症候群)が混ざったようなやつ。あと1世代で人類は滅亡か? 世界はとたんに荒れ狂ってしまう。
 イギリスの高校に16歳の女性の一人称で語られる生と死の物語。SFのカテゴリに入れる必要はない文学としての作品であると思う。
 落ちを言ったところで、この作品の質が下がるわけでもないし、大落ちがあるわけでもない。「アルジャーノンに花束を」みたいな分かっていても感動、という話でもない。そういう意味でも文学的だ。まあ、文学ってなによ、という話にもなりかねないのだが。
 SF的な話をすると、「たったひとつの冴えたやり方」(ジェームズ・ティプトリー・ジュニア)と比較される要素がある。個人と人類の存在のどちらを優先するか、その究極の選択は是か非か、是とするならば、個の自己犠牲は、どのような状況で正当化されるのか、どのような社会的、あるいは、個人の内面として許されるのか。そういう物語である。
 作者のジェイン・ロジャースは、回避可能かつ、代替可能な究極の選択を選ぶ少女に対し、内面としての自己的な救済だけでなく、外的な救済を少しだけ用意している。それも、この物語をどう読むか、読者に判断をまかせることになるのだが、そういったことを書いているあたり、やはり文学なのだろう。

 この小説は、子ども達ではなく、今、究極の選択なき自己犠牲を強いる社会をつくり、そこに生きている大人たちが読んで、立ち止まって考える作品なのだ。



(2014.2.14)




TEXT:丸目はる
monita@inawara.com
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