土をもっと知ろう2 土のダイエット
成田国寛

 収穫の秋を迎え、新米や美味しい果物などが市場に出回るようになりました。収穫作業も終わりほっとしているのもつかの間、次作に向けた準備が始まっていることかと思います。

 仕事柄、各地から分析用の土がたくさん送られてきます。分析結果を眺めていると、土壌中の肥料バランスが崩れていたり、「肥満体の土」が意外に多いのに驚きます。
 土にも肥満があるの?と思われるかもしれませんが、リン酸・カリ・カルシウムなどの肥料成分が過剰に蓄積した土が結構あるのです。このような土では、窒素さえ与えれば作物が何作もできたりします。しかし、残念ながら品質はあまり期待できません。カリ過剰のため苦土の吸収が阻害されたり、アルカリに傾きすぎて鉄・マンガン・ホウ素などの微量要素が不溶化したりして、作物が健全に成長できないからです。(雨による溶脱の少ないハウス栽培ではよくある話ですが、露地栽培でも問題となっています)

 もともと肥料成分が障害を出すほど蓄積することは、考えられないことでした。戦前までは、土を肥やすための苦労話が多く残っているほどです。人と同様「粗食」だったため、土も太りすぎることはありませんでした。良質な堆厩肥などを入れながら土の胃袋(肥料を吸着する能力)を徐々に大きくし、バランスの良い土づくりを行ってきたのです。
 戦後、高濃度で効率的な肥料が登場しはじめると様相が一変しました。収量・品質アップのため、面積あたりの施肥量が急増する一方で、堆厩肥など土づくりに不可欠な有機物の投入量が少なくなったのです。これでは胃袋が徐々に小さくなっているのにも関わらず、高カロリーの食事を続けているようなもの。やがて様々な土の成人病が現れてきたのも道理なわけです。

 施肥が減らない理由の一つは過去の成功体験にあります。新しい肥料をふったら収量が上がった、作業が楽になった等々、あまりに劇的な効果を目の当たりにしたのです。うまい食事を一度味わったら、なかなか元の粗食にはもどれません。また、肥料が高濃度なだけに少量散布ですむのですが、この一ふりが収穫増につながると思い、ついつい余分にふってしまうのも人情です。
 農政上の問題点もあります。県ごとに作物別の施肥基準が策定され、地域ごと同じように指導が行われています。基準では圃場毎の残存肥料成分を考慮せず、予想収穫量に対する必要成分がはじきだされます。その上、安全率も加味されているので、実際の必要量に対して多めの施肥量となっているのが普通です。(なお先駆的な県では、施肥削減へ動きつつあります)
 こうして、知らず知らず肥料成分がたまってしまうのです。悲しいことですが、長年有機栽培をされている圃場でも、同様な症状が出ていることがあります。これは偏った有機質肥料や天然の無機質肥料の過剰投入が原因となっています。

 健全な作物づくりを行うために、まず土の健康状態を知ることが大切です。年に一度は土壌分析を行い、CECや肥料成分の蓄積量・バランス・塩基飽和度などを調査するのも、経営や環境保全の面からも必要だと感じています。
 私たちが健康管理のために食生活を見直すように、土の状態にあわせて施肥を調整し、場合によってはダイエットも必要なこともあるのです。
分析用の土を前にしながら、人も土も腹八分目が健康の秘訣ではないかと思う今日この頃です。

(参考)
土の胃袋の大きさを表す指標の一つとして、塩基置換容量(CEC)があります。CECは土が陽イオン(アンモニウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンなど)を電気的に吸着・保持できる能力を表しています。数値が大きいほど多量の陽イオンを吸着することができ、保肥力が高い土壌となります。一般的に、粘土土壌や腐植の多い土壌で大きく、砂質の土壌では小さくなります。日本の土壌のCECは20前後で、海岸砂丘地などの砂地では、5以下の土壌もあります。
答え:アルカリ性

copyright 1998-2000 nemohamo