農業とギャンブル
潮田和也

 農業と関係なさそうな話題だが、僕は、農産物流通の仕事の方では、生産者に契約栽培の安定性を説いたりしているくせに、フリー雀荘に一人で麻雀を打ちにいくくらい、本人はギャンブル好きなのである。
 しかし、負けたり勝ったりだが、勝ったらあぶく銭だ、と無駄に使うわけで、ギャンブルでお金が増えることはおそらく永遠にないのである。お金が減らない確実な方法があるとすれば、ギャンブルをやらないことなのである。そもそも、たいていのギャンブルは、ものすごく能力がある人でも、ほとんど勝てないようにできているのである。
 僕は時々競馬もするが、競馬は平均すると、4分の1がJRAにとられるようになっている。ちなみに、JRAは農林水産大臣の管轄で、収益の大きな部分が畜産の振興などにも使われているので、私の今まで損したお金も、日本の畜産に役に立ってると思えば少しは気が晴れるのである。
 大川慶次郎という競馬評論家が先日亡くなった。彼は、競馬で3億円稼いだ伝説の男として有名だが、亡くなる直前、あるテレビ番組に出演したとき、その稼いだ3億円の話題になったとき、「でも、4億円損しているんですけどね」とポロッと言ったのだった!なるほど、大川さんですら、ぴったり4分の1損していたのだった!
 結局、ギャンブルで儲けるのは、JRAだったり、麻雀荘だったり、賭場を開くヤクザだったり、ギャンブルをやらない人なのだった。
 話は変わるが、静岡や愛知の渥美半島は、網のきれいに入った高級メロン栽培の為の、立派なガラスのハウスがたくさん建っている。話が変わりすぎかな。この立派なガラスハウスは、300坪で2000万円くらいする。
 昔はこの「網メロン」が高くて、僕も、美しい網のメロンは小学生の時、交通事故で入院したときくらいしか食べた記憶がない。
 高く売れるメロンに目を付けて、静岡や愛知では借金してばんばんこの2000万円ハウスを建てた。初期に建てた人は、まだこの手のメロンが高くて経営状態もよかったが、この十数年間は、かなり安くなった。
 ハウスメロンは、一個一個ぶら下げてあの立派な網を美しく入れるのだが、大体、家でデザートのメロンのネットの美しさをしみじみと鑑賞する家はめったに無く、ふつうの家では畑にころがっている路地のメロンで十分なのである。
 見舞い品もお菓子とか色々なものがあり、世の中の入院患者も突然増えたりしないので、メロンの値が上がらない。2000万ハウスの農家は大変である。
 冬にトマトをつくったり、菊をつくったりしてハウスをなんとか活用しているが、ほかにあまり利用方法がない。メンテナンスも必要だし、ガラスハウスは壊すのがもっと大変なのである。住むには暑い。(住んでる人もいるらしい!)肌が焼けるし、暑くてダイエットできるので、ガングロ女子高生にはいいと思うが、ガングロ女子高生は2000万円も持っていない。
 こういう「投資」をギャンブルと言ってしまうと怒られそうだが、そもそもハウスの2000万円の資金を貸した農協は、これからはメロンは安くなるぞー、と、競馬の予想屋より正確な読みが必要だったんじゃないか。ハウスを建築した業者だけが雀荘やJRAのように確実に稼いで「勝ち逃げ」できたわけだ。
 農協も勝ち逃げしたように見えるが、実は借金で首が回らない農家の農地を差し押さえたところで、作物を作ってそれが売れなければ、農地なんて価値ゼロなのである。これってバブルで破綻した銀行と似ているぞ。

 畑を作ることにお金をかけるのは、何を作るのも畑は必要だし、畑は残るからいいが、決まった作物用に大きな設備投資をするのは、かなりギャンブル的である。
 知り合いの農家が、「台風がくるたびハウスを建てようと思うが、長い目で見ると、数年に一回台風で被害を受けても、お金をかけない路地栽培の方が、結果、稼いでいる。」と言ったのをよく覚えている。そして、この台風の被害を受けやすい渥美半島の知り合いの農家は、路地の野菜をどんどん増やしているのである。2000万円を節約して、数年に一度の台風の被害を我慢する方法をとったわけだ。農業はもともと自然を最大限に利用する産業で、そうじゃなければ長い目で見たら成り立たない産業なんだろう。

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