チレチレ便り 村落開発普及員

池田久子

 サンニコラス村に「村落開発普及員」として赴任して10カ月。赴任して間もない時は2年というと途方もなく長く感じられたのに、そろそろ折り返し地点。
 この4月からようやく活動が本格的に波に乗り出しました。最近は午前中は私の通称「物置オフィス」でパソコンをうったり、手工芸クラスの準備や試作をしたり、草木染めのスペイン語の本の翻訳を進めたりして過ごしています。そして午後は、各地域での農家女性の手工芸活動のにわか講師として、リサイクルペーパーの紙漉きを週4日、9つのグループに教えています。
 この紙づくりは、仕事の方向性に悩んだ1月初旬、他の隊員の活動しているアルエ村に出張し、紙作りをする女性の家にお邪魔し習ってきたものです。この活動は、ある協力隊員によって、3年前、村の女性たちの組織づくりに始まり、講師をつれてきての講習会実施、作品づくり、商品開発、販路開拓と力を入れてきた結果、首都の手工芸の店にも出品し、品質の高いグリーディングカード、アルバム、箱、状差しなどを常時販売できるまでに成功しているといった経緯があります。そこまで欲張らなくても、何かヒントがあるはずと訪問し、作品を買い、自分の村に戻って職場や役場職員や家族に見せたら大評判。この好反応に自信をもち、「こういった活動を副収入を得るために農家女性に教えたい」と提案したのが1月下旬。3カ月以上かかったけれど、ようやくスタートしたのです。
 この村では約30の女性らのグループ活動、言ってみれば公民館でのカルチャー講座が組織され、そこに役場は女性たちがしたいと思っている手工芸・生産活動の講師を派遣し、講師料を払います。例えば、編物を習いたいと申請したら編物の先生が派遣されるしくみです。しかしながら、30もあると講師料が予算オーバーで、4月から11月の間に講師料が払えるのは1カ月あたり2回分。毎週、同じ曜日、同じ時間に集まるものの講師を呼べない日が月に2回あるので、その余った日に私がにわか講師としてお邪魔するという段取りになり、他の講師らと一緒に役場の車で送り迎えしてもらっています。だいたいクラスは3時から4時半くらいまでの時間で、送迎にかかる時間を入れると1時から2時までの昼休み後は終業時間まで現場出張です。
 日本のように車や自転車で公民館に集まれるわけではなく、皆が未舗装道路をテクテク歩いてくるので、雨季で寒いこの季節、大雨だと中止、雨の日も久々に晴れた日もほんのわずかと、思うように集まらない時もありますが、にわか講師なので贅沢は言えませんし、あと半年もあるので焦らずのんびりとやっています。

 日本にいる時は、牛乳パックでの紙づくりはなんだか面倒くさそうで、自分は牛乳パックを集めてスーパーの回収箱に入れるだけ、自分の家などで作ったことはありませんでした。また、牛乳パックで作ったハガキを見ても素朴ではあるけれど、そんなに素敵な作品には見えなかったものでした。しかし、チリに来て本当に紙作りにはまっています。
「こんなに簡単に紙が作れるなんて知らなかった」「すごく面白いし、新しい!」「これから紙を捨てずに集めておくわ」などと参加する農家女性や私のオフィスをのぞきにくる役場職員らにも関心されたり驚いたりされるのですが、私自身が一番魅了されているかもしれません。毎日のように新しくオリジナルな紙に出会えるのはとても楽しいのです。

 以下にこのリサイクルペーパーの作り方を記します。
1.広告でも新聞でも職場の白い紙でも、水をはったバケツにちぎって水に浸す。
(新聞のインクは濃いので2日は水にひたして水を替えた方がいいという提案もある)
2.大さじ1杯程度の木工用ボンド、葉、花など手に入る植物を両手一杯ほど集め、硬い茎などを除いたものと、水に浸された紙を一緒にミキサーでドロドロに攪拌する。
3.十分細かくなったら7分目ほどまで水を入れた大きなたらいにこの液体を空ける。
4.このプロセスを3、4回ほど繰りかえす。(ボンドは1回で十分)
5.30×40cmの薄い合板の上に40cm四方ほどに切った布(古シーツ)を被せておく。
6.30×40cm四方の網戸の網を張った鉄枠を両手で持ち、たらい深くまでいれて、その紙 の繊維をゆっくりすくいあげ、少し水を切る。(たらいと鉄枠の大きさは自由)
7.ひいておいた布の上に、すくいあげた紙がのった鉄枠をひっくり返すように乗せる。
(すくいあげた鉄枠の自分より遠い側の辺を自分の近い側の布の隅の辺に乗せ、すくいあげた紙の繊維の面が布に直接面するように手前から向こう側にゆっくりと倒す)
8.裏面となる網の上から、車用などの大きなスポンジで水をしっかり吸収した後、スポンジで網ごしに軽く叩きながら、網を取り外す。
9.ずれたり空気が入っていないかを確認し、皺が寄らないように気をつけて2枚目となる覆う布をかけ、5.のプロセスからを合板と布の枚数だけ続行する。
10.終わったら重石をしてしばらく待つ。(この過程は省いてもかまわない)
11.重石、合板と覆った布を次々に取り、濡れた紙の繊維がついた布ごと、風が強くない日陰、倉庫などの中に干す。
12.乾きすぎて曲がっていたり、布の皺などがあるようなら霧吹きなどで少し湿らせてから布の裏側からアイロンをかけて、紙をそっとはがしてできあがり。
●アイロンの熱等で反らないように合板で重石をしばらくしておいた方がよい。
●このリサイクルペーパーに押し花を貼ってカードを作ったり、厚紙でフォトスタンドを作ってその上に紙を貼って押し花を貼ったりして作品を作ります。

 この紙作りの良い点はどんな紙でも使えること。レシート、落書きしたノート、カラフルな包装紙、ゴミのような紙から新たな紙が生まれるのです。それと投入する草木によって色合いや風合いがオリジナルで変化があります。例えば雑草を入れて緑っぽい紙に、バラや赤っぽい花を多くいれてピンクっぽい紙に、芝のような細い葉、枯葉、紅葉した葉、ミキサーにかけず小さい花をたらいにうかべてすくいあげるなど、そのたびに面白い仕上がりになります。ただ難しいのは押し花づくりと作品づくりの指導。女性たちも紙づくりは楽しんでやりますが、手先の器用さと忍耐力の必要な作品づくりは人によって差が出るし、向き不向きがあるので、今後どうしていくか考えています。できればこの紙作りはあと1、2カ月で終え、草木染め、廃油石鹸づくりを始めたいと思い、4月から試作を繰り返しています。なるべく高い材料を買わず、家にある材料や農村で手に入るもので作れる手工芸、手先の器用さをそれほど要求しず楽しんでできる新しいアイデアの物づくりを考え提案できたら、と。それがいつか副収入を得るところまでいけばとの望みを抱えつつの試作品づくりは、仕事を越え、自分自身がかなりはまっている毎日なのです。

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