いまさら聞けない勉強室
テーマ:いまどきの学校給食

牧下圭貴


 筆者は、学校給食ニュースというホームページと機関紙の編集責任者として、学校給食問題に関わっています。99年4月にホームページを開設し、2002年11月に、のべアクセス数が20万件になりました。特に過去1年で10万件のアクセスとなり、関心の高さをうかがわせます。
 今回は、いまどきの公立学校での学校給食の状況と問題点、可能性について簡単にまとめました。

●学校給食は進化する
 学校給食の体験・記憶はおもしろいものです。世代、地域によりまちまちで、よい・悪いのどちらであっても強烈な印象として残るものです。
 ある人は、脱脂粉乳、ぼそぼそのパン、鯨肉が記憶にあることでしょう。
 ある人にとっては、揚げパン、ソフト麺、牛乳に入れるミルメークかも知れません。
 若い人だと、ご飯、味噌汁、焼魚、それに牛乳という不思議な組み合わせが印象的かも知れません。
 学校給食を語るとき、ついつい、自分の記憶、体験で語りがちです。しかし、学校給食は千差万別、その質も、内容も、意味づけも、世代や地域によって異なります。
 全国的に言えることは、米飯給食がはじまった1970年代後半以降、1996年の病原性大腸菌O-157による学校給食事故が起こるまでの間、学校給食の内容、質、味ともに少しずつよくなっています。
 自治体によっては、地場の米や地場の新鮮な野菜、肉や魚を使い、加工食品を使わない給食を出していることも。
 学校給食といえば牛乳がつきものです。しかし、それによってご飯、味噌汁、おかず、牛乳といった不思議な組み合わせが起きます。それに対して、ご飯の時にはできるだけ牛乳を出さず、献立のバランスを考えるという栄養士もいます。
 今の学校給食は、少しずつ進化してきました。しかし、問題も山積みです。また、可能性も大いにあります。学校給食の議論をはじめる際に、このことを前提にしておきたいものです。

●義務ではない学校給食
 小中学校の教育は義務教育ですが、学校給食はすべての学校で行われているわけではありません。
 2000年現在で、小学校のうち、完全給食を行っているのは95.8%の学校です。補食給食(おかずだけなど)、ミルク給食(牛乳だけ)を足して、97.8%となります。
 中学校では、完全給食が71.0%、補食給食、ミルク給食を合わせると84.4%となり、完全給食を実施しているのは7割程度です。
 児童生徒数からみると、小学校で完全給食は98.5%の児童が食べています。中学校では67.0%です。
 中学校給食は、都市部で行われていないところがあるため、生徒数でみたとき、学校数より少なくなります。
 学校給食は、市町村、東京23区など、自治体単位で行われています。学校給食を行うか、行わないか、どんな学校給食にするのか、何を食べさせるのか、自治体単位で決めることができます。
 公立小中学校は義務教育で、その教育内容は基本的に全国共通ですが、学校給食は地域ごとに特色を持つことが可能です。

●学校給食の目的
 学校給食法第2条には、学校給食の目的が書かれています。
一、日常生活における食事について、正しい理解と望ましい習慣を養うこと。
二、学校生活を豊かにし、明るい社交性を養うこと。
三、食生活の合理化、栄養の改善及び健康の増進を図ること。
四、食糧の生産、配分及び消費について、正しい理解に導くこと。
 これを読むかぎり、学校給食は、福祉や単なる昼食を目的にしたものではないことが分かります。
 近年、食教育が注目されたり、「総合的な学習の時間」が設けられたため、学校給食を教材として使う学校が増えてきました。

●学校給食のしくみ
 学校給食の運営には、いろいろな方法があります。
自校方式とセンター方式…学校に調理室があって調理するか、学校給食センターで一括して調理し、各校に配送するかの違い。学校給食センターでも、数百食程度の小さなところから、1万食を超えるところまであります。センターの場合、配送に時間がかかるため、熱々のものが冷めたりと、自校よりも制約が大きいです。
独自献立、統一献立…自校方式でも、自治体全部が同じ献立をする統一献立と、学校ごとに献立を立てる独自献立があります。独自献立の方が、学校の独自性や地域性を発揮できます。
一括購入、個別購入…食材も、学校ごとに購入する個別購入と、自治体が一括して購入する方法があります。個別購入だと、地域の農家などから直接仕入れるなどの小回りが利くようになります。逆に、一括購入の場合、大量仕入れのため、食材に制約が起こったり、冷凍品などに頼る傾向が出てきます。
 学校給食の献立は、学校栄養士が立てます。学校栄養士は、都道府県の採用で、市町村に赴任します。自治体によっては、都道府県の割り当てだけでは足りないと判断し、独自に市町村で追加採用することもあります。
 調理員は、市町村など自治体が採用します。ですから、基本的に栄養士は都道府県の公務員、調理員は市町村の公務員となります。ちなみに、公立小中学校教員は都道府県の公務員です。
 近年、調理の民間委託がすすんでいます。これは、学校調理室あるいは給食センターでの給食調理を民間企業に委託するという方式です。これとは別に、外注弁当方式と言って、民間企業が自社の調理施設で調理し、学校に運ぶというのも、まれにあります。

●献立・調理のしくみ
 学校給食の献立は、文部科学省が定める児童生徒等の1人1回当たりの平均所要栄養量の基準と標準食品構成表をもとに栄養士が立案します。栄養士は、決められた食材費と栄養量などの制約の中で工夫を凝らしています。また、調理施設の設備によって献立に制約があります。
 日本人はカルシウムの摂取量が少ないとして、カルシウムの摂取量の基準は高くなっており、毎食牛乳がつく根拠のひとつとなっています。
 牛乳については、現在も学校給食用牛乳に対して国の補助金が出ています。米や小麦などもかつて国の補助金が出ていました。しかし、現在では補助金はなくなっています。
 食材は、毎朝、学校調理場や給食センターに届けられます。栄養士の立てた献立を調理員が調理します。食中毒予防の観点から、原則として食材の前日下ごしらえは行われていません。すべて、当日調理です。
 調理については、食材の加工度が低いほど、手間がかかります。冷凍ハンバーグならば、そのまま加熱するだけでいいのですが、ハンバーグのたねの場合だと味付けと成形が必要になります。さらに、手作りならば野菜や肉の下ごしらえからはじめなければなりません。調理をどこからはじめるか、施設設備、予算、学校給食に対する自治体の考え方によって大きく異なることになります。
 冷凍ハンバーグや、焼魚など、学校給食用加工食品、加工食材(冷凍を含む)は、年々多様化し、増える傾向にあります。特に、病原性大腸菌O-157の事故以降、衛生管理が厳しくなったため、作業が煩雑になり、そのために加工品、半加工品を導入したという自治体もあります。

●食文化と学校給食
 第二次世界大戦後の学校給食は日本の食生活、食文化に大きな影響を与えました。アメリカによる食料援助ではじまった戦後の学校給食は、脱脂粉乳とパンが基本となり、その後、パンと牛乳が必ず出るようになりました。一方で、米飯は1970年代に米余りから、農水省が在庫を減らすために米を学校給食に出すよう働きかけるまで、学校給食に出ることはありませんでした。
 パン中心の学校給食が続いたのは、アメリカが日本を小麦の売り先にするための市場戦略だったと言われています。
 パンの学校給食は献立も洋風なものが多く、子どもを通じて家庭にパン食や洋風な食生活をもたらしました。80年代以降、米飯給食がはじまると、献立はより多様化し、和食系のものが多く出るようになります。

●学校給食の問題点
 学校給食は年間190日ほど行われています。1日3度の食事として、年間1000回になる食事の内、わずか5分の1です。しかし、他の子どもと一緒に食べるという体験が、他の食事よりも強い印象と影響を与えます。その学校給食にはいくつもの問題点があります。
 自治体によって、問題の程度は違いますが一般的なところを挙げておきます。
・献立のアンバランス…ご飯が導入されてから、主食とおかずのバランスはよくなりましたが、どの給食にも牛乳がついてきます。1日の必要栄養量にこだわりすぎて、献立のバランスが崩れることもあります。栄養士の中には、1週間単位でバランスがとれればよいと柔軟に考える人もいますが、まだまだ少数です。
・設備と衛生…古い施設や設備が多く、衛生管理が十分にできません。そのため、調理員は必要以上の作業手順やきつい労働を強いられることになります。病原性大腸菌O-
157以降、衛生管理が強化されました。しかし、設備の改善を伴っていないため、調理場に汚染エリア(泥付きの素材などを扱うところ)と非汚染エリアを設け、その床に線を引いて、またぐときには手洗いや靴のはきかえ、着替えを求めるなど、無理難題に思えるものもあります。
・食中毒対策…センター給食や一括購入、統一献立の場合、大規模な食中毒事故となる可能性があります。市町村など狭い範囲で大規模な食中毒が起こった場合、病院や救急などの体制が追いつかず、手当が遅れるなどのことにつながりかねません。今、文部科学省もセンターから自校方式、あるいは、一括購入をやめるなど、食中毒が万が一起きても大規模にならないよう提案しています。
・教育現場…学校給食は、学校教員にとって「雑事」と考えられることがあります。年々煩雑になっている学校運営の中で、貴重な昼のひとときも、学校給食を配膳し、食べさせ、教育し、そして、片づけさせるというのは負担だというのです。一方で、給食を教材として活用している学校や教員も多数います。学校給食の意味づけについて、学校(教員)、地域や、教員養成過程(大学)などでの議論と知識の共有が必要です。
・予算…学校給食は、自治体の財政の中から運営されています。ほとんどの場合、保護者負担の給食費は食材購入にあてられ、それ以外は自治体の予算、つまり、税金から支出されています。そもそも、子どもの教育というのは、短期的にみるときわめて不経済です。つまり、人手(=人件費)がかかり、手間と時間がかかり、そのためお金がかかります。自治体や、地方議会では、「たかが子どもの昼飯」ととらえる人も多く、できるだけ予算を削減したいという視点で学校給食の運営について議論します。そのことが、学校給食の問題の根底にあります。
・多様性…アトピー・アレルギー児が増えています。食と関わることから、学校給食での対応が求められますが、医療と教育のはざまで難しい問題を抱えています。また、家庭での食習慣が多様化し、食歴(食べ物の経験)もまちまちになりました。そして、朝食の欠食が増えていることなど、学校給食というより、社会全体で子どもの食のあり方が問題になっています。同じものを一緒に食べる学校給食が抱える悩みです。

●学校給食の可能性〜地域づくりの中心軸に
 2001年から02年は食の安全性が毎日のように大きな社会問題になりました。ダイオキシン汚染、狂牛病(BSE)、雪印乳業の牛乳問題、牛肉偽装、違法添加物、違法農薬、輸入農産物の残留農薬・化学物質…。そのたびに、学校給食も、使用自粛や代替が起こり、外食産業などは「学校給食さえ再開してくれれば、安全だと客足が戻るのに」と訴えました。子どもが食べるものだけに、学校給食の対応は注目され、大きな影響を与えます。
 学校給食の影響力を、よい方面に活かそう、そういう動きもここ数年で広がりました。そのキーワードが「地産地消」です。地元に生産者がいて、食材があるのに、子どもたちがそのことを知らない、食べたことがない。子どもたちばかりではなく、地域の住民も知らない、食べたことがない。学校給食で地元の農産物や畜産、水産品を扱い、そのことを学校で教えることで、子どもたちが地元の食材を知り、保護者もそのことに気づくことができます。また、消費拡大にもなっています。
 そればかりではありません。学校給食で地場産品を扱うことで、地域と学校の人と人とのつながりができます。教材として、生産者のところに行く、体験する、地域の産業や環境を肌で、舌で、学ぶことができます。子どもたちの教育にも、開かれた学校づくりにも、地域づくりにも役立てることができます。
 よく、生産者と消費者の関係の理想として、「顔と顔の見える関係」という言葉が使われます。学校給食の地場産食材は、まさに、その関係をつくることができます。そして、地場産食材を通じて、地域環境保護を考えたり、あるいは、子どもに食べさせるということから、農薬を減らすなどの動きも生まれています。
 地域づくりは日本各地のテーマです。学校給食は、地域と地域の産業、住民、学校、子ども、環境、生活文化をつなぐ拠点と機能になる可能性を秘めています。
 もちろん、その可能性を活かすも殺すも、学校給食に関わる人達と、その地域の住民しだいです。学校給食は、自治体の運営であり、地方自治そのものだからです。よい学校給食も、悪い学校給食も、その住民の意識次第ということです。

 詳しくは、学校給食ニュース
 http://www1.jca.apc.org/kyusyoku/をご覧ください。

子どもの食と学校給食の関係については、農林中金総合研究所が1980年と89年に行った調査があります。学校給食と日常の食生活の変化が明らかにされています。
『学校給食を考える』荷見武敬 根岸久子 著 日本経済評論社(1993)入手困難

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