茨城県八郷町に暮らす
「消えたふじみ湖」


橋本明子



 八郷町の隣り笠間は陶芸で名のとおった町である。中心部を離れると、茨城県北にむかって、美しい里山が続く。里山の一つ、お富士山(おふじさん)は、かっては採石場であった。閉山するや、1年のうちに水深37メートルの湖となった。豊かなわき水にめぐまれていたのである。流入する水系もなく、水はあくまで青く、多くの貴重な生き物の宝庫で、とりわけトンボの種類は多いとの指摘である。オゼイトトンボ、ハッチョウトンボ、タガメ、ゲンジボタル、オオムラサキ、トウキョウサンショウウオ、鳥ではオオタカ、ハイタカ、ノスリ、ヤマセミなど。植物ではシラン、コクラン、ヒトツボクロ。
 ふじみ湖は県道から約2−300メートルのぼった山々に囲まれてしずかに水をたたえていたが、突如一般・産業廃棄物公共処分場「エコフロンティアかさま」に変身させられると知って、現地に案内してもらったのは、1月26日のことであった。「ナショナルジオグラフィック」や、チラシでみた美しい湖は、なんと11月15日からはじまった水抜き工事で水底までむき出しとなり果てていたのである。であるにもかかわらず、地下の湧水はかわらずわき出て、底に小さな2つの池を作り出していた。

処分場は湖に!

 処分場計画を、地元笠間の住民が知ったのは、1999年9月の新聞報道によってであった。28.7ha、を最終処分場と化し、10年間に240万立方メートルの産業廃棄物を埋め立てる。1日145トン処理する高温溶融炉2基も併設となる。そして全産業からだされる産業廃棄物、市町村の焼却灰や汚泥、灰燼等々、産廃19品目すべてを受け入れる。廃棄物の35パーセント以上が廃プラスティック、一般ゴミとあわせ燃やす。山頂の炉には、高さ59メートルの煙突をつけ、消却灰ともども埋め立てる。
 なぜ、貴重な湖をつぶして環境にはかりしれない害をもたらす処分場を作るのか。
 1.採石場跡地は処分場適地。
 2.土地所有者はかっての採石業者1社のため、買収容易。
 3.県道そばで搬入容易。
 なぜ、事前に笠間市民に知らせなかったのか。
「処分場のようなものは、早く知らせると反対にあって出来なくなる」(笠間市長答弁)そして充分審議をつくさぬまま市民の陳情も不採択とされてしまった。
 事業は県の委託で第3セクターの環境保全事業団が請け負い、建設費231億円のうち、10億円を国とする(要望中)。炉は日本鋼管が請け負う予定。
 建設にあたり、県は住民、県、市、事業団の4者協定を結ぶことはできなかった。住民の陳情に耳をかさず、話し合いの申し入れには応じないで、一方的に押しつけと説得をくりかえし、「自分たちのだしたゴミはどうするのだ」「反対するのは地元の福田地区民だけ」と問題をすりかえるばかりであったという。
 工事を急ぐ県、市側は10月1日工事着工、73パーセントの地元住民が反対するなかを工事に着手、15日には湖の水抜き工事に入った。水抜き工事が始まって、地元では井戸水が枯れ始めた。
 木村真季子さんは書いている。
−−−福田地区ではほとんどの家が井戸水を利用しており、井戸の水が枯れることはいままでありませんでした。生活に必要不可欠な水が、水抜き工事がはじまってから水位低下がはじまりました。わたしの家の井戸水は上昇と低下を繰り返しています。「蛇口をひねって水がでるだろうか」とわたしは毎日不安です。ある家では急に水位が低下、もとにもどることはなくなりました。ある家は毎日水位が低下し続け、蛇口から出る水は細く弱々しいものになってしまいました。−−−

ふじみ湖は水たまりか?

 美しい景観、貴重な動植物をふみにじってでも処分場をつくるのか? この批判をすり抜けるために事業団が考え出したのが、ふじみ湖水たまり説である。事前調査の結果、わき水による温度や電気伝導度の変化はみられなかったというのがその論拠で、雨水や周囲の尾根にふくまれる地下水がながれこんだもの。湖底の地盤は難透水性で構造的に汚水の流出はあり得ないと主張する。一方の住民側は、閉山後1年で約80万トンの湖が形成されたこと、事業団自身の調査で湖水の外部流出量は毎分100−40リットルと報告している点をあげて、わき水の湖と断定している。
 したがって、処分場の底部に敷く遮水シートが押し上げられて破損し、汚水が地下に漏出する危険がある、放水する涸沼川の水を汚染、川下の上水道取水口も汚染される。周辺には、涸沼川の水にたよるたんぼがひろがり、川のシジミも名物なのに、広く将来にわたって、人々の生活から水をうばう結果を招く。
 さらに、緊急問題は、周辺の井戸水の水位低下と枯渇の心配である。ここにいたって住民側317名で水戸地裁に建設差し止めをもとめる仮処分申請がだされ、水抜き作業にたいしても、湖の証拠保全をもうしたてる訴訟がおこされるにいたった。
 ここで地元の中学生石川望くんの作文をおしらせしよう。
「未来へ」
「地球をえがいてください」そういわれたらあなたは、何色を使ってえがきますか? おそらく、緑と白と青を使って「青い地球を」えがくでしょう。私もそうえがきます。けど、十年、二十年後にも地球を「青く」えがけるでしょうか…
 今、世界中の彼方此方で地球がSOSを出している中、茨城県笠間市でも助けを求める声が聞こえます。それは巨大産業廃棄物処分場の建設問題でゆれている一つの湖でした。
 その湖は「ふじみ湖」とよばれています。水は青く透明で、見る者の目を奪う美しさです。しかし、この湖はまだ多くの人に知られていません。なぜなら、ふじみ湖は最近発見された世界一若い湧水の湖だからです。(中略)
 私は、このふじみ湖を守ることに協力させていただいています。私のやる事は、まず一人でも多くの人にふじみ湖のことを伝えることです。そのためポスターを配ったり、声をかけたりということをしています。こんな小さな事ですが、きっとふじみ湖を支える力になる、と私は思っています。(後略)

ふじみ湖をもう1度
 無惨に水を抜かれたふじみ湖を目のあたりにして、悔しさ、悲しさと同時に、ゴミがあるから、燃やしたらよい、灰はうめたらよい、という目先の考えだけで終わっている行政を、なんとか転換してやめさせる行動にわたしも、ちいさな協力をしなければ、と心に期した。そうでなくては、自分自身の生存も否定することになる。
水系は少しそれるものの、山の上に立つ59メートルの煙突から吐き出される汚染された煙は、風向きによって、広く遠く運ばれる。隣町だからといってはいられない。わずか数年前、もっと離れている水戸でおこった中性子事故で茨城全県は汚染されたところという烙印をおされた。日本全国を汚染列島と化す愚をくりかえすのはよそう。ふじみ湖裁判原告団のみなさんのメッセージをお伝えする。
「私たちは、燃やして埋め立てれば事足りるとした行政のやり方でなく、資源の有効利用を徹底して進めるしくみや、ゴミゼロの社会をめざし、企業も、行政も、消費者も一体となって、これ以上、自然を破壊し、負の遺産を次代に残さないよう努力をしていかねばならない」


ふじみ湖裁判ホームページ 

http://www5e.biglobe.ne.jp/~fujimiko/



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