北海道新規就農者の農楽だより
鶏がやって来た

藤田京子



 昨年5月はじめ、我が家に110羽の鶏がやってきた。平飼い養鶏を始めるために注文しておいた、生まれたての初生ビナだ。現在の土地に落ち着いて3年目、農業をするなら畑と鶏を、という当初からの思いのひとつがようやく実現した。
 農業をするにあたって、平飼い養鶏はぜひとも始めたかったことの一つだった。鶏糞は肥料として利用できるし、出荷できなかった規格外の野菜や家庭で出る生ゴミなどをエサとして利用できる。資源循環型の農業と暮らし、そして自給的暮らしに鶏は欠かせない。
 加えて、できるだけ消費者に直接販売する提携関係を築いていきたいと考えている私たちは、地元で提携先を見つけるきっかけとして卵に大いに期待していた。ここ富良野で野菜を売ることは予想以上に難しく、これまで地元での野菜の販売はわずかだった。でも卵なら農家でも需要はあるだろうし、卵の配達の便を利用して野菜を食べてもらうこともできるのではないかと思うのだ。

 鶏を飼うにあたって一番心配なのがキツネなどの外敵だ。この地で既に養鶏を始めている人から話を聞き、鶏舎の周囲はコンパネを土中に深く埋め込む、金網を丈夫なものにする、犬を鶏舎のそばにつなぐ等して対策をたてた。幸い、ここまで被害に遭わずこれた。
 さて、かわいいヒヨコ達はあっというまに成長し、秋には卵を産み始めた。秋の収穫作業に追われつつ、卵の提携先探し。新聞の折り込みチラシや口コミなどで消費者が少しずつ増え、週2回の配達が始まった。

 卵の販売を初めてみて幾つか感じたこと。まず、野菜と同様、卵にもやはり「見た目」の問題が付きまとうということだ。我が家の鶏のエサは、原料を仕入れて自家配合している。富良野産のクズ麦と米ヌカを主体に、国産の大豆粕、魚粉、ほたて貝ガラがその内容だ。ポストハーベスト農薬や遺伝子組み換えの問題がある輸入とうもろこしは与えていない。ところがとうもろこしを与えないと、黄身の色が薄くなってしまう。雑草や野菜クズをたっぷり与えられる夏場はいいのだが、緑餌が不足する冬はどうしても薄くなる。
 黄身の色はエサに含まれる色素によるもので、あくまで見た目の問題だということを、口頭であるいは通信などを通じて消費者に説明するのだが、理解しづらいのか通信を読んでくれていないのか、黄身の薄さを指摘されたことがあった。濃い黄身を望む消費者がいる以上、できるだけこちらも努力しなくてはと思う一方で、見た目の問題に過ぎないのに、なんでここまで…と思ったりしつつ、秋に収穫し凍ってしまったクズ南瓜を家の中に持ち込んで解かし、鶏に与えている私だ。
 そして見た目の問題と同じく、卵も野菜と同じだなあと思うのが、ハネ品の存在。奇形やヒビ割れなど、卵でも「食べられるけど売り物にはできない」ものは出てくる。自家消費しきれない分は、鶏には申し訳ないけど捨てるしかない。うーん、心が痛む。

 こんな悩みもあるけれど、消費者との直接提携というのは、やっぱりやりがいがある。今朝の新聞に、うちの卵を使ってもらっているレストランのちらしが入っていた。そこには、我が家の卵の紹介もしっかり入っていた。嬉しい。配達の時には、消費者から色々な声を頂く。おいしいですよという嬉しい感想、どきりとするような意見、小さい子どものいるご家庭とは子どもの話題、応援してるよという励まし。卵、そして夏は野菜を通じて、農業の現状を少しでも多く消費者に伝えられるよう提携の良さを生かしたい。一方で顔の見える関係に甘えすぎないように、時々気を引き締めていこうと思う。そして連日の氷点下のなかでもせっせと卵を生んでくれている鶏たちに感謝の気持ちも忘れずに。

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