チレチレ便り 加工食品(編集長からのお題)

池田久子



 さて、チリ生活も残すところあと5カ月。一般家庭にホームステイし、歩いてすぐの役場に通い、午後は農村部の女性たちにリサイクルの紙すきと写真たてづくりを教えるために現場出張するというあまり代わり映えしない暮らしが8カ月続きました。が、それもひと段落。今は夏休み、バケーションムードで、私もしっかり「のんべんだらり」しています。
 チリに来て1年と7カ月が経ったわけですが、日々漫然と、箱入り娘的に世間知らずに暮らしているので、チリのことが生活の中で「感じる」ことは多くても「知っている」ことはおそらくかなり少ないなと反省しきりの今日この頃です。意識して物事を見て、聴いて、調べていないので、何について書けばいいのかと編集長?に問うたら色んな質問が寄せられたので、それについて不完全ながらも答えながら紙面を埋めることにします。

・チリの生鮮食料品や加工食品に含まれる輸入食品の割合や値段
・加工食品と生鮮食品の値段の違い
・日常的にどんな加工食品を使っているか
・どんな加工食品がどのくらいの単位で売られているか

 これは難しい…。普段自炊してないので食料品を買うことが滅多にないからパッと値段が頭に浮かばないのですね。生鮮食品の広告も手元にないし。村に小さな商店はあるけど、用事がないから行かないし、隣の市のスーパーで買い物することもないし…。

 まずこの質問に入る前に言わなければならないのは、チリで生産できる小麦や豆類、牛肉、生乳などは隣国アルゼンチンやパラグアイから安く入ってきてチリの農家の所得低下を招いているとチリ人は言います。被害者意識もあるでしょうが、村内のかつては小作人に小麦を作らせていた畑も今は不在地主が松やユーカリを植えることを選び、小作人として働く場もなくなり仕事がなくなったと農家のお母さんたちから聞きました。ちなみにこれら木材チップの99%が日本へ輸出されるというデータもあります。チリ人に反日感情はないですが、木材、魚介類の輸出と捕鯨について冗談まじりにでも責められることはそれなりにあります。付け加えていえばチリは国内市場が小さく(人口1500万人)、工業製品などは多くを輸入に頼り、第2次産業は中進国の割に発展していませんが、銅はじめ魚介類、果物・ワイン、木材などの一次産品の輸出が国を支えています。
 というわけで、外国製の加工品、調味料は一杯溢れています。でも、安さを売りにしているため味や品質で劣る、と言うのは、下宿のマリア小母さんの弁。彼女は旬にこだわり、市販品をあまり信じず、ファーストフードを嫌い、手作りに誇りを持ち、商品が高くても国産物を買うことを常に意識している、珍しいくらい立派な意識をもった主婦、消費者です。服や靴も国産メーカーが中国製などの攻勢により倒産していくのがたまらないという愛国心の持ち主。だから我が家の話題から一般化してチリの食事事情を評するのもあまり正しくはないのですが。

 さて、食卓で目にする加工品といえばチーズ、ハム、ジャム、マーガリン、マンハールといったところでしょうか。そう、当然パンもありますね。
 チーズはケソ・アニェホというゴーダチーズ風のものと、村内の農家でも作るケシージョという豆腐のようなフレッシュチーズがよく食卓にあがります。我が家の食卓はあまり加工品を買わない家で、ハムのような味のパテをたまに買ってパンに塗るくらい。ハムもチーズもパンも1枚、1個からでも店に備えたスライサー機械で切ってもらって買えるので、旅行中とかに食事を安く済まそうと思えば、パンを数個、ハムやチーズを数枚買ってサンドイッチを作るのが一番経済的です。

 パンはラードを練りこんで一次発酵だけさせたカロリーの高い硬めの丸いパン・アジュジャが主ですが、カロリーが半分くらいの硬めのフランスパン、パン・マラケタも食べます。時々マリア小母さんもおいしい手作りパンを焼いてくれます。そのパンと同じ生地を灰の中で焼いたトルティージャも硬く、少し灰の味がして美味しくて、田舎にいくとよくこれでもてなしてくれます。ついでに言うと、田舎では豚を解体したとき脂身はジリジリと炒ってカリカリの揚げ物チチャロンを作り、そのときに出る油は濾してラード(マンテカ)として蓄え、パンを作ったり、ソパイピージャというドーナツのような揚げパンに使います。このマンテカは大きなケースや袋入りで店で売っています。

 ジャムは下宿のマリア小母さんの手作りで、黄桃、苺、メロン(刻んだクルミを加える、これが美味)、野苺など。1年間まず買うことはありません。桃は1キロ60円、メロンは5個で200円、高いと言われるサクランボやイチゴでも1キロ100円くらいですから手作りジャムを売ったれば、と思うところですが、砂糖1キロ90円ほど、保存用のビン約60円を買ったり、保健所の許可をとる等となると結局は工業製品、1キロ200円くらいを買うほうが安あがりというのは日本の農村と同じ悩みかと思います。しかし、おばさんの作るジャムはうちに食事にくる日本人にも大好評です。

 マンハールとはコンデンスミルクを茶色くなるまで煮詰めたもので、1キロ入りのビニールパックに入っているさまは、味噌そっくり。でも焼いたパイ生地に挟んだり、カップケーキの中に入れたりと日本の餡子みたいに多用されるお菓子の基本。最初は甘すぎて大嫌いだったけど、今や大好物、たまに中毒みたいになるくらいです。
 お菓子は一通り日本と同じようにクッキーやチョコレート、ポテトチップスなどが一杯あります。夏にはモテ・コン・ウエシージョといって、戻しておいた全粒麦と干し桃を甘い蜜で浸した、日本のあんみつみたいな冷たいデザート1杯60円程度をよく食べます。

 とはいえ、此方に来てからというもの昼ご飯にしっかりカロリーの高いものを食べるせいか滅多に間食をしなくなりました。そして先日の健康診断結果でコレステロール値が136にまで下がったのには驚きました。やはりマリア小母さんの自慢の料理のおかげか?それとも昼に1時間近くゆっくり食べながら飲む一杯の赤ワインのおかげか? もちろん赤ワインはこの村か近隣の村の1リットル80円程度の地ワインです。

 スーパーに行けば、陳列棚には様様な、加工品、調味料などがぎっしり並んでいますが日本ほどの加工品、インスタント食品、味付けソース類、コンビニ弁当のたぐいはまだチリでは想像できない域のものと思います。日本みたいに和食、中華、イタリア、エスニック、世界各国の料理を食したいという食に対する好奇心がなく、食のバラエティに乏しいのも理由のひとつでしょうが、家庭で作るスープ類や煮物類が惣菜コーナーで買えるというのはまだまだ非現実的です。それでも確実にコーラとハンバーガーという文化は根強いし、貧しい人ほどパンを中心にお腹を膨らまし、紅茶やコーヒーにお砂糖2、3杯という食生活なので肥満体になり、都会の暮し向きのいい人ほどダイエットに気を使いスリムな体型を保っているのが皮肉な感じです。チリに来てしっかり食べるわりに体重が4キロ落ちた私ですが、マリア小母さんはじめ家族はしっかり肥満体なのが悲しいところ。とにかく紅茶に入れる砂糖の量を控えてほしいけど、日本人ほとんどが砂糖なしで紅茶やコーヒーを飲むのをとても不思議がるチリ人。私たちからすればコーヒー風味の砂糖水にしか思えない飲み物を飲んでいるあなたたちのほうが不思議だと言いたいのだけど…。
 食についての興味や疑問は尽きることがありませんね。

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