遺伝子組み換え連載講座 7
生物が行っている遺伝的組み換えについて(2)


前川隆文



 今回は相同組み換えがテーマですが、みなさんに身近な話となると「遺伝」のことにつながります。親戚とかで集まると、「目元がお父さんにそっくりね」とか、「あっ、後姿が福山のおじさんに似てるわ」とかいわれますよね。福山のおじさんなんかもう十年近くあってないし、そんなの知らないって思いますけど、血縁同士っていろいろ細かい点で似ているところありますよね。このことを多少詳しく説明していきます。
 人の細胞は(すべての植物も動物も)2セットの遺伝子を持っていて、一つが母親から、一つが父親からです。それぞれの遺伝子はほとんど(正確には99.9%以上)同じものですが、ほんの少し(0.1%以下)だけ違います。もちろん母親も父親もその親から同じように遺伝子をもらっています。その過程でちょっとだけ複雑なことが起こっていて、母親(父親)が子どもに遺伝子を渡すときに、トランプでいえばシャッフルにあたるものをしています。おじいちゃんとおばあちゃんからもらった2セットの遺伝子から1セットを子どもに渡すときに、どちらかでなく混ぜているわけです。おじいちゃんからの遺伝子の並びをA-B-C-D-E-F-G-H、おばあちゃんからの遺伝子の並びをa-b-c-d-e-f-g-hとすると、子どもには遺伝子の並びがA-b-c-D-e-F-g-Hといったように渡すわけです。
 これが父方母方どちらの親戚にも似ている原因です。しかもその似かたが、部分部分で違っているのです。最初の例で言えば、自分は福山のおじさんが持っている背中を形作る遺伝子と同じものを持っている可能性があるということになるのでしょう。
 また、親が子どもに遺伝子を渡すのは一通りではありません。
 ある子にはA-b-c-D-e-F-g-Hでしたが、別の子どもにはa-b-C-d-E-F-G-g-hだったりするわけです。これが姉妹兄弟でも違ったようになる理由です。
 おじいちゃんのA-B-C-D-E-F-G-Hとおばあちゃんからのa-b-c-d-e-f-g-hから、a-B-C-D-e-f-g-Hの遺伝子をつくるときに、相同組み換えが起こっています。
 この例では、A-B(a-b)、D-E(d-e)、G-H(g-h)の3箇所で組み換えが起こっています。
 ここで実はごまかしている部分があります。ある人がA-B-C-D-E-F-G-Hとa-b-c-d-e-f-g-hの2セットの遺伝子を持っているとして、Aとa、どちらが働いているのでしょうか。どっちとも働いているとすると、目元がお父さんに似ている理由がわかりませんよね。お父さんとおかあさんを足して2で割ったような目になるはずです。事実は複雑です。たとえばAとaともに目を作る遺伝子だとして、Aが切れ長の目、aが丸い目を作るとします。この人が切れ長の目を持っている場合、Aを優性、aを劣性と呼びます。高校で生物を習った人は、メンデルの法則で習いましたよね。えんどう豆の「丸」と「しわ」の遺伝子とか。確かにそういうように単純に区分けできる遺伝子もありますが、区分けできないことのほうが多いようです。例えば目もそんなに簡単ではありません。大きな理由は目の形作りに関わる遺伝子が多数存在するからなのです。例えば糖尿病とか、高血圧、ガンへの罹りやすさに関する遺伝子などは、一つだけでなく数多くのものが関係していて、しかもそれが遺伝子の細かい違いで罹りやすさの程度も違うのです(単一の遺伝子できまる病気の型もあります)。多くの遺伝子が関与するものはそのような病気だけでなく、身長、知能、性格なども同様です。そしてこれらのものは単純に遺伝だけでなく環境も強く影響するのです。
 遺伝といえば、下世話なところでABO血液型と性格の話があります。現時点では科学的な根拠はありませんが、全く可能性がないわけではありません。「遺伝子の配列で近くのものはセットで遺伝する確立が高い」ということがあります。先ほどの例(A-B-C-D-E-F-G-H)でいえば、AとBは80%の確立でセットで遺伝するが、AとHは50%の確立でしかセットでは遺伝しないというようなことです。ABO血液型の遺伝子は一つ(第9染色体)ですが、性格の遺伝子というのはたくさんあるようで場所などもはっきりしていません。可能性はかなり低いでしょうが、もしかしてそのうち血液型の遺伝子の近くに性格を強く特徴付ける遺伝子があった、なんていう話もあるかもしれません。




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