フィリピン・リトル・タジャン・プロジェクト
牧下圭貴

 農と食の環境フォーラムでは、今年度より、フィリピン・ルソン島の北部、リトル・タジャン村での農業自立と環境保全をテーマにしたプロジェクトを発足します。
 フィリピンを含む東南アジア諸国では、急速な経済発展によって、伝統的な地域社会が崩壊し、その結果、森林が伐採されたり、持続可能な農業が、土地収奪型の農業に変わっています。そして、崩壊した地域社会の人々は離散し、文化が崩壊しています。
 これは、地球規模の環境破壊を生むひとつの典型です。
 環境破壊を防ぐ手だてには、地域の気候風土に合った森林を回復し、地域で循環可能な範囲での農業生産を行う必要があります。しかし、そこに生きる人々が、経済的手段を失ったままでは、森林の回復も、持続可能な農業も成立しません。同時に、地域社会が生き生きとしたものになり、地域社会が持続可能になることで、はじめて、農地や森林が再生が可能になります。
 フィリピンにいくつもある少数民族村は、今、崩壊の危機にあります。そのひとつ、リトル・タジャン村は、1970年代に中央山岳地帯のタジャン地域から政府プロジェクトによって移住してきた少数民族であり、60世帯が暮らしています。また、近隣には同様に100世帯の少数民族村があります。
 土地面積は、4千ヘクタール強。その4分の1が農地であり、主に、飼料用トウモロコシ栽培を行っています。しかし、経済的には国際相場の反映を受けて厳しく、村の維持さえ困難になりつつあります。
 現在、フィリピンのNGO・CORDEV(有機農業と複合農村開発センター)と日本のNGOにより、トウモロコシ栽培の無農薬有機栽培化と日本の畜産農家への直接販売を目指したプロジェクトが計画されています。
 その一方で、村全体の植林による環境保全、水源確保、地域に見合った農業や村のデザイン(環境デザイン)などのトータルな取組が求められており、日本国内のNGOが持つ、地域づくり、自立的農業生産や地域に根ざした農業技術の確立などを、村人とともに構築する必要があります。
 農と食の環境フォーラムは、第一次計画として3年次に渡り、地域デザインと実践に取り組みます。
 初年度は、地域の環境、伝統的農業手法、転用可能な技術の調査を中心に行い、2年目以降に、植林をはじめとした具体的な実践を村人や技術リーダーらとともに取り組むことにしています。
 初年度については、2001年1月頃、すでに今年の夏、一度調査に入っている鈴木敦氏がリトル・タジャン村を再訪し、地域の長期的な気温変化、雨量変化を調べるため、百葉箱等の設置と記録をとるための準備を行います。この記録はリトル・タジャン村に住むCORDEVメンバーが行います。その後、それを踏まえて、「短期的な水の確保法」「長期的な涵養林育成」「農業の多様化」をテーマに、調査と意見交換を行い、行動プロジェクトを立案していきます。
 このプロジェクトは、フィリピンではCORDEV(有機農業と複合農村開発センター)と協働します。また、国内では、草の根貿易商社でありリトル・タジャン村の有機トウモロコシプロジェクトなどにも関わるATJ(オルター・トレード・ジャパン)や里地ネットワークの協力を得ます。

 なお、このプロジェクトは今年度の(財)イオングループ環境財団の助成を受けています。
 以下に、さる8月にリトル・タジャン村を訪問し、調査を行った鈴木敦氏のレポートを掲載します。少々専門的ですが、リトル・タジャン村の現況と課題を知る上で貴重なレポートになっています。ぜひご一読ください。
「ねもはも」では、定期的に、このプロジェクトの進展について報告します。

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