ねもはもおすすめ: こういう情報は大切だ 3
 番外編 秋に読みたい本 2004年


牧下圭貴



 新書がよく売れているようです。そこで、今回は、手軽に読める新書から、おすすめの本を選んでみました。
 今回のテーマは、「人と人との関わり」です。
 食べものは人と人との関わりの中から得られ、食文化や流行もそこからはじまります。日本人の食への関わり方を見ていると、人と人との関わり方がおかしいのではないかと思ってしまいます。世界に目を向けると、同じ時間に生きていながら、飽食と飢餓が同居しています。
 21世紀になり、環境破壊や汚染、地球温暖化の影響などが、現実になってきました。水・食料・エネルギーをめぐる紛争も目に見えるようになってきました。そ
 の中で、日本や世界のしくみと人と人との関わり方について考えるきっかけになる4冊です。

案内:牧下圭貴(ねもはも発行人)


『市民の政治学 −討議デモクラシーとは何か−』
著者:篠原一
発行:2004年1月
出版:岩波新書(新赤版)

 学校給食関係の勉強会で、学校給食調理の民間委託に市民が反対する根拠はどこにあるのか、というテーマのお話しを聞くことができ、すぐに読んだのが本書です。そうでなければ、このタイトルの本を手に取ることはなかったと思います。
 ボランティア、市民運動、NGO、NPO…これらの言葉が、新聞などで普通に登場するようになりました。ところが、日本ではいまひとつ言葉と実態がしっくりしていない気がします。たとえば、私(牧下)は、市民運動や地域づくりなどを「仕事」にしていますが、それが「仕事」であることを説明するのは大変だったりします。
 また、科学技術に偏りすぎた価値観に違和感を覚えながらも、それに対し、すっきりとした説明をするのはなかなか難しいことです。
 本書は、「市民的公共性」という言葉を使いながら、市民社会のあり方、人と人との関わり方、国や経済と人々の関係や、科学主義に対する見方などをわかりやすく整理しています。

『貧困の克服 −アジア発展の鍵は何か』
著者:アマルティア・セン
発行:2002年1月
出版:集英社新書

 はやく紹介したいと思いながら、時間が過ぎてしまいました。ノーベル経済学賞を1998年に受賞した経済学者で、哲学と経済学の橋渡しをした人として知られています。
『貧困と飢饉』(岩波書店2000年 ハードカバー)では飢餓の原因が、食料供給の問題ではなく、人々が食料を得るための権利を奪われていたことによるものだということを明らかにしました。常に、人間の本来的な権利と社会の関わりについて見つめ、そこから経済や政治、国際社会について提言を続けています。「人間の安全保障」とは何か? センの考え方に触れる導入編として、4つの講演録と解説が掲載されています。

『バナナと日本人』
著者:鶴見良行
発行:1982年8月
出版:岩波新書(黄版)

『エビと日本人』
著者:村井吉敬
発行:1988年4月
出版:岩波新書(新赤版)

 私が産直流通団体の仕事をしていたとき、民衆交易としての輸入無農薬バナナと粗放養殖エビについて関わりを持ちました。その際に、日本とアジアの食べものをめぐるいびつな関係について深く考えることができました。国際資本、プランテーション、経済的搾取、奴隷的労働、飢餓、農薬汚染、自然破壊、環境汚染…、日本人の胃袋が引き起こした惨事、今も起こし続けている惨事について、20年前の本ですが、今も学ぶことができます。
 この2冊は、バナナ、エビという身近な食材について具体的な事例を紹介しながら、その生産から流通までのしくみを明らかにします。そして、人と人との関わり方について考えることができます。



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