フランスのグリーンツーリズム(前編)

源氏田尚子





 5月の終わり、フランス北西部ノルマンディー地方の農家民宿に泊まった。フランスの農家民宿は、とても人気がある。ちょうど、キリスト教の聖霊降臨節という祝日で、連休だったせいもあるかもしれないが、予約を取るのも大変だった。7、8件の農家民宿に電話をかけたが、どこも満員で断られた。ホテルなら空いているところはあるのに、部屋数の少ない農家民宿(2、3室しかないところが多い)は、すぐ埋まってしまう。

 やっと見つけたのが、家族で「養鶏」を営む、ピレー農場だった。ホームページで見ると、ベッドには手作り風のクッション、壁には刺繍の小さな額が飾ってあったりして、部屋もとてもかわいい。おかみさんが楽しんで農家民宿をやっている雰囲気が伝わってくる。こんな素敵なところが空いているなんて、鳥インフルエンザ騒動のとばっちりかなあ、そうだったらかわいそうだ というわけで、勝手に応援を決め込み、泊まることにした。
 ピレー農場は、ノルマンディーの海岸線から20kmぐらい内陸に入った、バービルという小さな村にある。「村には道が2本しかないから、すぐ分かりますよ」という話だったが、村に着くなり、十字路でどっちに行ったらよいのか迷ってしまった。困って電話すると、ピレー家のお嬢さんが、バイクに乗ってすぐ迎えに来てくれた。助かった〜。

 農場の入り口には、ジット・ド・フランス(フランスの農村民宿協会)のマークと一緒に、手作りのニワトリの看板が架かっている。広い敷地には、ピレー家の住居(兼農家民宿)の他、牧場、池、大きなニワトリ小屋、リンゴ畑もある。家は、ノルマンディー風のどっしりした赤いレンガづくりの建物で、小さな白い窓がかわいらしい。お客が泊まる部屋は3部屋あり、この日は満室だった。私達が泊まった部屋には、ダブルベッドが一つと、2段ベッドが一つ、トイレと洗面台、それにシャワーも付いていて、とてもきれいだった。なお、ホテルではないので、タオルなどはついていない。

 到着したのは夜8時ごろだったので、ちょうど、これから夕食という時間だった(フランス人は夕食の時間が遅い)。食事は、ピレー家の食卓で、家族とお客が一緒に食べる。この日のお客は、4人の子供づれの家族と老夫婦、それに我が家(3人)という構成だったので、ピレー家(5人)も入れて全部で16人! 大きな楕円形のテーブルを16人で囲んで、それは賑やかな夕食だった。
 その日の夕食は、まず、自家製のシードル(リンゴの発泡酒)とカルバドス(リンゴのお酒)とカシスを混ぜた特製の食前酒からスタート。シードルもカルバドスも、この地方の特産品だが、シードルは、家でとれたリンゴから作ったという。前菜は、野菜のテリーヌ、ゆで卵、トマトに、手作りのマヨネーズをつけていただく。養鶏農家だけあって、卵は新鮮だ。ボールにたっぷり入ったマヨネーズは、つやつやと光っていて、味はさっぱり、これだけ食べても美味しい。メインは、ローストチキンにリンゴのソースを添えたもの。チキンは、もちろん、農場の鶏で、大きなお皿に山盛りで出てくる。パリパリした皮が香ばしく、あっという間にお皿が空っぽになった。これに、サラダと、食後のチーズ、洋ナシのケーキとコーヒー。おかみさん手作りのご馳走で、すっかり満腹だ。

 大人の食事は夜11時ぐらいまで延々と続くので、途中で飽きてしまった子供達は、連れ立って庭に遊びに行く。「一緒にサッカーしようよ」とピレー家の一番下の娘さんが誘いに来てくれたので、息子も喜んでついて行った。夜10時ぐらいまで、子供達は大騒ぎしながらボールを追いかけていた。ドッヂボールに似た、バル・ア・プリゾネーというフランスの遊びも教えてもらったらしい。大人が「デザートだよ」と呼びに行くと、「えー、まだ遊びたい〜」と不満そうだ。夏休みに、田舎の親戚の家に行って、従兄弟と遊んだような、楽しいひとときだったようだ。
 部屋に戻って窓を開けると、辺りは静まり返って、虫の音だけが聞こえる。明日は、きと、ニワトリの声で目が覚めるぞ…(続く)


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