今さら聞けない勉強室 ねもはも版
テーマ:食品廃棄物と輸入量の複雑な気持ち


牧下圭貴



お知らせ
2012年9月、食品廃棄物と輸入量の複雑な気持ち(改)として最新情報等を入れて書き換えました。 http://hal.txt-nifty.com/memo/2012/10/post-ee94.html


 料理をすると野菜くずや魚のあらが出ます。野菜くずや魚のあらなどでスープをとればいいのですが、なかなか面倒な気持ちになってそのままにしてしまいます。
 最近は、豆乳ブームで豆乳がよく売れているそうですが、豆乳をしぼるとあとにはおからがでます。わが家でも豆乳をしぼりますが、むしろおからの方に人気があります。食べれば、食品ですが、おからの多くは食品廃棄物として廃棄されたり、たい肥や飼料になっています。今回は、食品廃棄物について食料輸入や生産とも合わせながら考えてみたいと思います。

■食品廃棄物とは
 食品廃棄物とは、食品製造段階で出る動植物残さ、流通段階で出る売れ残りや賞味期限が切れたり腐ったりしたもの、さらに消費段階では外食産業や家庭での調理くずや食べ残し、期限切れなどのもののことです。このうち、食品メーカー(加工会社、牛乳工場など)からでる食品製造段階の廃棄物は産業廃棄物扱いです。そのほかは、一般廃棄物になります。

■どのくらい捨てているのか
 食品廃棄物については、厚生省(当時)が、1996年のデータを元に行ったものぐらいしかまとまったものがありません。
 そのデータによると、家庭からは1000万トンの食品が一般廃棄物として出されています。事業系では、一般廃棄物が600万トン、産業廃棄物として340万トンが出されています。
 一般廃棄物は、そのほとんどが焼却や埋め立てなど、他の廃棄物と同様に処分されていて、5万トン(0.3%)が肥料になっているだけです。
 産業廃棄物の方は、48%にあたる163万トンが肥料や飼料などに再生利用されています。
 全体では、1772万トンが焼却・埋め立てられています。
 このデータは、食品リサイクル法が施行される前のもので、食品リサイクル法では、産業系の食品廃棄物の排出量を2006年までに20%削減することを目標にしています。

■生産量と輸入量
 食品をたくさん捨てている日本ですが、同時に輸入大国であり、食糧自給率がとても低い国として問題になっています。そこで、1996年度の食品廃棄物に合わせて同じ年の食糧需給表で比較してみます。
 食料全体での統計が難しいため、一番輸入量が大きい穀類について考えてみます。
 1996年度、穀類は、国内生産量1081.6万トン=約1000万トンでした。ほぼ、家庭での食品廃棄量と同じです。
 輸入量は、
 輸入量2832.7万トン−輸出量20.1万トン=2812.6万トン=約2800万トン です。
 国内生産の約3倍近くも輸入しています。

■輸入しては、捨てている日本
 食品の統計というのは本当に難しいと思います。
 生産して出荷した時点では、スイカやバナナの皮も生産量に入ります。
 穀類でも、米を玄米で考えるか、白米で考えるかで1割ほどの重量差があります。
 玄米−ぬか=白米ですから、ぬかのことも考える必要が出てきます。
 また、炊飯して「ごはん」になったあとは、米粒のときより水分を含んで重くなってしまいます。
 輸入食料でも、トウモロコシや大豆は、油を搾ったあとのかすが飼料になったりしますし、大豆は、豆腐のあとのおからも出ます。また、流通段階で腐ったり、かびが生えて食べられなくなることもあります。
 畜産品でも、鮭の皮をはじめ魚類のあら、家畜の内臓なども出てきます。
 国内生産量では、野菜果物の、重量ベースでの生産量が多く、また、牛乳は液体であるためやはり重量ベースの生産量が多くなります。
 そして、これらが食品廃棄物になりやすいことは容易に想像できます。
 しかも、食品廃棄物は、他の廃棄物と一緒になることが多く、食品廃棄物だけの統計というのはほとんどありません。
 そのため、単純化することができないのは承知の上ですが、厚生省の食品廃棄物推計と農水省の食糧需給表から考えてみると、日本は、2800万トン以上の食料を輸入し、1700万トンを食べずに捨てていることになります。

■減らすこと、増やすこと
 数字遊びをしてみましたが、いかにして、食品廃棄物を減らし、食料輸入量を減らし、そして、国内生産量を増やすかということは、食料輸入大国、廃棄物大国である日本の大きな課題です。
 数字遊びの続きですが、
 穀物輸入量2800万トン−食品廃棄物1700万トン
 =1100万トン
 もしかしたら、本当に必要な輸入量はそれほど多くはないのではないかと思えてきます。

 過去の食品需給表をめくってみると、1960年以降の統計で、もっとも穀類の生産量が多かったのは、初年度
1960年度の1710.1万トンです。しかし、この年、米の生産量は1285.8万トンで、424.3万トンは小麦、大麦、裸麦などによるものでした。
 米の生産量が一番多かったのは、1968年度の1449.9万トンです。
 最新の2002年度の米生産量は888.9万トンですから、
561万トンも少なくなっています。
 減反政策と米の消費減少により、転作と水田の放棄が進んでいますが、作ろうと思えば、このくらいは増やせるという読み方もできます。
 まとめてみます。

      穀物生産量 米生産量  輸入量
 1960年度 1710.1   1285.8    450.0
 1968年度 1666.8   1449.9   1274.1
 1996年度 1081.6   1002.5   2832.7
 2002年度  996.6    888.9   2705.4

 あわせて下の表もご覧ください。いずれも農水省の食糧需給表から作成したものです。


 穀物の輸入量が急増したのは、畜産飼料によるものです。
 以前、このコーナーの「胃袋が変える日本の風景〜ご飯と水田」で、日本人が米を1967年に比べて半分しか食べなくなったから水田も半分しかいらなくなったという数字遊びを掲載しました。
 今回食品廃棄物について考えはじめてみましたが、結局は、農地で「作りやすいもの」と、今の日本人が「食べたいもの」の差が、輸入食料となり、簡単に輸入できることが、簡単に捨ててしまえる社会を作っているような気がします。

■食品が家庭に届くまでの問題

 食品廃棄物については、農水省が、2003年2月に発表した、2002年秋の家庭における食品ロス率調査があります。それによると、世帯ごとの食品ロス率は5.4%でした。前年より若干減ったそうです。食品ロス率は、家庭での消費した食品で、食品廃棄物量のうち、不可食部分とされたりんごの皮や魚の骨、米ぬか、野菜くずを除いたもので、可食部分の廃棄量と食べ残しの合計のことです。
 私も、魚の骨や野菜くずを出していますが、すぐさま不可食部分と定義されることにはちょっと抵抗があります。なぜなら、食べられないものではないからです。しかし、それが現実です。
 食べ残しや、廃棄が5.4%であることは多いのでしょうか? 少ないのでしょうか?
 農水省では、この数字を重視して、毎年のように調査しています。
 しかし、この数字は家庭に食品が届いてからの数字であり、年々加工食品や調理済みの持ち帰り食品(お弁当など)が増えている現状では、家庭に届くまでの食品廃棄率の方が大きな要素を占めているような気がします。
 実際に、同じ米でも、消費者が食べる方法はずいぶんと変わりました。米の消費量は、1968年の約120kgをピークに、現在では年間60kg弱と半分になりました。それだけでなく、1990年までは米(白米、玄米)を買ってきて、家庭で炊飯していた割合の方が多かったのですが、1991年以降、加工してあったり(お弁当、パックごはん、冷凍)、外食でお米を食べたりする方が多くなり、その差は年々広がっています。(下表)
 これは、家庭で調理をする割合が減っていることを意味します。すでにできあがったものを買ってきて食べるのですから、廃棄量は減ってもおかしくありません。しかし、その製造の過程ではどうなのでしょうか? 食べやすいように、販売しやすいように形を整形し、整える過程で、見た目の悪いものは捨てられ、過剰にカットされてはいないでしょうか。

 今回は、統計数字を使って遊びながら、つらつらと食品のあり方について考えてみました。特に、答えの出る内容ではありませんでしたが、これを機会に、食品廃棄物や食糧需給表のようなものに少しでも関心を持っていただければと思います。

↑クリックで拡大
お知らせ
2012年9月、食品廃棄物と輸入量の複雑な気持ち(改)として最新情報等を入れて書き換えました。 http://hal.txt-nifty.com/memo/2012/10/post-ee94.html



copyright 1998-2004 nemohamo