しずみんの まう・まかん
お題:もりもりバリごはん1



水底 沈





■ナシチャンプルーで行こう!

同居人と1週間バリ島のウブドでのんびりしてきた。バリに通い始めて早や7年目。今回はちょっと間が開き、ほぼ2年ぶりの渡バリである。田んぼと芸術の村・ウブドにはいつも泊まる宿があり、宿のマダムやガイドの青年など顔なじみもいるので、のんびり便利にくつろげる。
私たちがいつも利用している「ロスメン」と呼ばれる民宿のような安宿は、基本的に一泊一食。朝ごはんがつく。通常はトーストやホットサンド、パンケーキなどに、フルーツサラダと紅茶という簡単なものなのだが、マダムに「私たちはお米のごはんが大好きなんだ」と話したら、朝からナシチャンプルーを出してくれるようになった。
ナシチャンプルーというのは「ごちゃまぜごはん」というような意味。平皿に白いごはんを盛り、そこにおかずが数品ちょこちょことのっている。おかずはその日によっていろいろ。鶏の唐揚げ(アヤムゴレン)やミーゴレン(焼きそば)、ラワール(野菜やココナツの和え物)、テンペ(大豆発酵食品)やタフ(豆腐)を揚げたもの、未熟なプパヤ(パパイヤ)やナンカ(ジャックフルーツ)をスープ煮にしたもの、サテ(串焼き)などなど。惣菜屋からテイクアウトすることも多い。家でお祝い事や地域のお祭りがあったりすると、お下がりに豚や鶏のサテがついたりもする。
この「ナシチャンプルー」というのはだいたいどこのめし屋にもあるメニューだ。「日替わり定食」とでも言おうか。「ワルン」というカテゴリーの雑貨屋兼軽食堂(日本でパンや文房具や雑貨をいっしょに売っているような店があるだろう。あれだ)や「ルマ・マカン」と呼ばれるレストラン、観光客向けのちょっとしゃれたカフェ、ホテル付属のレストランなどなど、クラスに合わせて安くシンプルなものから、盛りも内容も価格もゴージャスまでいろいろある。「なんだかよくわからぬが、インドネシアでとりあえずいろいろ食べてみたい」と思ったら「ナシチャンプルー」を頼むのがよい。「ごはんに合うおかず」というのは、米食文化の人間にとってはどの国でも大概はずれないものだ。

■バリ米は危険な香り
私たちが泊まる宿で出るごはんに使われるお米は「ブラス・バリ(バリ米)」で、この家の所有する田んぼでとれたもの。タイ米より短いが、日本のお米より少し長く、ふかふかぱらりとして軽い食感だ。この家では60アールの田んぼを所有しているが、現在は農家の人に貸し、とれたお米で地代をもらっているのだそうだ。このバリ米、あっさりしているが、塩味やスパイス系のおかずといっしょに食べるとほんのり甘味がひきたち、実にうまい。私のようなめし食い人種にはあとをひいてたまらないごはんだ。地元の人たちは通常あまりたくさんの種類のおかずを食べず、1〜2種類のおかずで山盛りのごはんをむしゃむしゃ食べる。しかし、うまいからといって調子に乗ってごはんを平らげてしまうと、あとで二重に大変なことになる。
ひとつは、「もてなしのココロ」。「お米一粒には七人の神様が宿る」と言ってごはんは最後のひと粒まで無駄なく食べよ、と教える日本のマナーとは違い、バリではひと粒残らずごはんを平らげるのは卑しいことだとされるらしい。また、もてなしてくれた主人に「足りなかったのかしら…」と気を遣わせることになるので、せめてひとくち分ぐらいは残して食べ終えるのがよいとされている。これは中国から東南アジア一帯によく見られる価値観だそうだ。ついうっかり、うまいうまいと平らげてしまうと、翌日皿の上には倍量のごはんがてんこ盛りにされてきて腰をぬかすはめになる。客に不足ないように、十分にごはんを出すのがバリのもてなしの基本なのだ。
ふたつめ。バリのごはんは水を吸う。「あ〜、おなかいっぱい!」とため息をつき、手元にある甘い紅茶をがぶがぶ飲む。紅茶はいつもポットに潤沢に用意されているジャワティーで、飽和水溶液になるほど砂糖を入れて飲むのがバリ風。ペットボトル入りの冷たいミネラルウォーターの時もある。水分が入ると、胃の中のごはんがふくらむ、ふくらむ!炊けたあともまだ水分を吸い込む余力を持っているバリのお米。二度目の満腹感が私を苦しめる。食後の水分には、ご注意ご注意。水分を吸うから、カレースープなどかけながら食べるとおいしいのだけれどもね。





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