仕入れる野菜もなくて…2004年の農産物

潮田 和也


2004年は農産物にとってさんざんな年だった。

 今年は10個の台風が上陸した。上陸したのは10個だが、上陸とは、九州、四国、本州、北海道に上陸したことを言うので、沖縄や奄美自体にはもっと「上陸」しているわけだ。いかに台風に慣れている沖縄や奄美とは言え、今年は、ハウスはぶっ壊れるは、定植はできなくて12月になってもろくに収穫できないわ、でたまらない。そして、15号や18号は全く「台風慣れ」していない日本海側を通っていたので、りんごや米に被害を与え、15号は「風台風」といって、雨がない台風だったので、これは強力な濃度の塩分を運び、塩害を起こし、秋田周辺の米農家の稲が一日でまっ黄色になって、中には「壊滅」した農家もいた。
 まさかもう来まい、もう来まい、と何度も思ってもさらに何度も来た今年の台風は、僕自身も野菜の仕入の仕事をやってから、いや生まれてから初めてである。
 22号のあと、長雨が続き、23号が追い討ちをかけて畑が田んぼ化した。葉ものの野菜が大被害を受け、10月からの野菜は異常な高値を記録した。僕らは仕入れる野菜がなくて、緑だったら緑のおばさんや緑の宇宙人でも仕入れたいくらいだった。雨に弱い上、生長に時間がかかるレタスや白菜は、今でも市場にない。
 やっと12月の半ば現在、農家の経営はもちろん尾を引いているだろうが、野菜の流通としてはちょっと落ち着いてはいる。

 台風だけじゃなく、新潟の大地震も、浅間山も噴火して、自然災害のオンパレードで、来ていないのは小惑星の衝突くらいかと思ったくらいだ。

 昨年から今年にかけて暖冬で害虫がぬくぬくと越冬したせいか、そしてさらに夏が高温だったせいもあると思うが、害虫もやたらと多かった。害虫の中の害虫、害虫チャンピオンの称号を与えたいヨトウムシはもちろんパワー全開だったが、それに加え今年は本来ピーマンやタバコが好きなはずのタバコガが大発生してレタスなどが食べられまくったり、なぜかコオロギに野菜をバリバリ食べられまくられたり、いつもとちょっと違った。
 トウモロコシの害虫、アワノメイガは、標高1500メートルの産地、長野県の南アルプス大池農園という産地にとうとう、「登頂」した。あの体で1500メートルも登ったのだから、「そこにトウモロコシがあるから登るのだ」と言ったどうかわからないがヒラリー卿も真っ青である。ちょっと前までは、1000メートル級の高原であれば、アワノメイガの害はない、というのが常識だったのだ。

 熊もかつてないくらい出没した。島根県は熊出没マップ「クマデス」を発表したくらいだ(「アメダス」とかけたんだろうか。だとしたら僕のギャグより強引である)。北軽井沢の清水さんという生産者のとうもろこしは何百本も親子の熊にもりもり食べられてしまった。何でも畑の中央から円を描くように食べ進むらしく、ミステリーサークルは実は熊の仕業ではないか、と思ったほどである。群馬の赤城山の林さんは、熊が来やすい畑に今年はトウモロコシをやめてレタスを植えたら、熊はレタスを踏み潰しながら隣の家のトウモロコシに通っていたらしい。「熊はレタスを食べない」という貴重な情報を得られたわけだ…って貴重か?
 イノシシの被害もひじょうに多かった。熊もそうだが、台風や自然破壊で、山にエサがなくなったということだろう。

 夏は異常に高温で、果物の熟期など大きく影響があったが、その後にもいろいろありすぎて、すっかりそんなことは忘れてしまった感じである。

 僕は簡単に「異常気象だ!」と言わないようにしている。気温にしても降水量にしても、ぴったり「平均値の年」などあるわけがない。「平均値」からはずれるのは当たり前だから、どの年も「異常」と言えば「異常」のわけで、いちいち驚いてはいられないからだ。今までもちょっとの間、雨が降らないので「旱魃だ」と大騒ぎして、いつの間にかシレッとした感じで雨が降って、喉もと過ぎればみんな忘れている、ということの繰り返しだった。

 しかし、今年はさすがに、「マジで異常だ!」と言わないわけにいかない。今年のような天候、台風の上陸が来年もあったら、たくさんの農家が農業をやめることは間違いない。

「異常気象」はずっと続くとそれは「異常」ではなくなって「普通」になってくるわけだ。そうなったら農家も適応して「普通」になってるんだろうか。それともそれを「破滅」と呼んでいるだろうか。

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