しずみんの まう・まかん
お題:もりもりバリごはん2



水底 沈




■インドネシア料理・バリ料理
日本のインドネシア料理店に行くと、「ナシゴレン(焼きめし)」や「ミーゴレン(焼きそば)」、「ガドガド(ピーナツソースのサラダ)」や「アヤム・ゴレン(鶏の唐揚げ)」、「サテ・アヤム(ピーナツだれの焼き鳥)」などが出てくる。バリに旅した旅行者が食べるのも、大抵上記のようなラインナップ。しかし、実はこれらは「対外的なインドネシア料理」であって、「バリ料理」ではない。
インドネシアは大小約1万3700もの島々からなる国。島や地域ごとに独特の文化や風俗、言語、食生活を持ち、それを、なかばむりやり「ひとつの国」として束ねているようなところだ。だから、公用語として学校で教えているのは一応「インドネシア語」だけれど、みんなそれぞれ昔からその地域で使ってきたことばを別に持ち、食生活も様々なのだ。
上記にあげた料理は、ジャワ島などのポピュラーな料理を観光客向けに食べやすくアレンジしたものがほとんどで、観光産業がメインのバリ島でも旅行者が入りやすいレストランやホテルではこのような料理が出る。しかし、一般家庭の食生活や地元の人が行く食堂、お祭り料理などとなると話は別だ、本当の「バリ料理」は、そんなところにある。
食材の名前もインドネシア語ではなくちゃんと「バリ語」でそれぞれの名前があるし、調味料の使い方やよく使う肉、ハーブ類も、味の指向も違うのだ。しかし、短期間の旅ではなかなか地元の台所にまでは入っていけないし、料理しているところを見る機会も少ない。私は幸い定宿にしている家族経営の小さな宿でよく料理を見せてもらったり、私が食いしんぼであることを知っている宿のマダムにいろいろ教えてもらえるのだが、それでも、彼らが「あたりまえ」だと思っているのに私たちにとっては「珍しい」食材や調理法は、なかなかのぞき見る機会が少ない。
これは、日本の台所でも同じだと思う。みそやだしの種類や、いつも食べている「菜っぱ」に特別の感慨を持って料理している人は少ないし、よそから来た人に「何かこの地域独特のものを教えてください」と言われても、自分たちがいつも食べているものが「よそもの」にとって珍しいのかどうなのかなんて、わからないものだ。
そういうところに、別の食文化を知ることの難しさがある。大抵、日本に来る「よその国の料理」は、貴族や王様、お金持ちが食べる宮廷料理であったり、その国の人が対外的に自慢したい、または売りこみたい「もてなし料理」だ。日本料理だってそうだと思う。外国人にポピュラーな和食は「スキヤキ」や「スシ」であって、よほど日本に精通している人でなければ「ワタシハネギヌタトヤキナスガスキデス…」とは言わないだろう。やはり日本も、対外的に宣伝したいのは「おもてなし料理」なのだ。
そんなわけで、実際の日常の料理を知るにはやはり現地の台所や市場に飛び込んでみるしかない。あちこち安食堂や市場の朝ごはん屋台を試してみたりもしたけれど、それでも言葉や文化の壁があるし「よそもの」には突っ込んだことは聞きにくく、歯がゆい思いをしていたのである。

■バリの素材で日本料理
今回の旅では、幸いにも「バリ料理」の料理教室を体験することができた。インドネシア料理の教室は日本にもぽちぽちあるけれど、「バリ料理」となると、食材の入手が珍しいことやレシピ本などにまとめられていないこと、詳しい人が少ないことなどあって、なかなか出会う機会がない。
参加したのは、バリ人の夫君と結婚して日本食の居酒屋を営んでいるユミさんの料理教室「dapur BALI」(ダプール・バリ…バリの台所)。彼女がバリのお義母さんから学んだバリ独特の料理…日常のお惣菜からお祭り用のハレの料理まで…を日本人にもわかりやすく、食材の知識からじっくり教えてくれる料理教室だ。彼女が経営する居酒屋「影武者」の一角を使い、マンツーマンでいっしょに作りながら教わることができるので、スパイスのつぶし加減を体感したり、味見したり、自分の好みの加減に仕立てたりできる。
前日の夜、日本から到着してすぐに2日後の教室を予約しにお店に行った。ついでに夕飯。親子丼、カツ丼、バンクアンのおひたしなどをいただく。
日本食の居酒屋なので、メニューも日本食。ドンブリものやうどんなどもある。しかし、食材はバリのもの。カツ丼の豚肉もバリの豚だし、卵はバリの鶏の卵、お米もバリ米だ。おだしはしっかり和風で見た目もちゃんと「カツ丼」「親子丼」なのだが、そこここにバリの食材の力を感じた。肉にも卵にもぎゅぎゅっとパワーがある。お米は日本のものよりあっさりして軽い、しかしタイ米よりは日本米に近い、バリの米。いつも定宿で朝ごはんに出してくれるのもこんなごはんだ。汁をよく吸うので、食べ過ぎるとあとでじわじわと腹の中でふくらみ、さらに苦しくなる。軽いのでむしゃむしゃ食べてしまうが、油断のならないめしだ。
バンクアンのおひたし バンクアン

「バンクアンのおひたし」は、一見長いもの千切りにしょうゆとのりをかけたような一品だが、食べるとしゃきしゃきとして、ナシかりんごのような食感。さっぱりしている。あとで聞くと、バンクアンの現物を見せてくれた。ぽってり下ぶくれで、ヤマトイモのような、ひげ根が生えたイモのような外観。北海道の「ヤーコン」を思い出したが、日本にはないらしい。和名は「葛イモ」。メキシコでは「ヒーカマ」と呼ばれ、アメリカなどではよく食べられているらしい。このおひたし、下戸の私にはよくわからぬが日本酒にもよく合うだろうし、ごはんのおかずにもいける。酢じめした青魚にも合いそうだ。
珍しい、それでいて懐かしくなじみのある食材に出会えるのがバリの台所なのだ。ごはんによく合うお米の国の食材たち。料理教室が、ますます楽しみになった夜だった。(続く)



■dapurBALI(ダプール・バリ)
http://www.dapurbali.com/
毎週 水曜日・土曜日 9:00〜13:00
1名$40(最小催行人数2名)
2004年12月現在



  



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