茨城県八郷町に暮らす
「みそをつくる」


橋本明子





■味噌つくり−−その1

 4月5日は一年一度の大豆畑トラストの味噌作りの日である。遺伝子組み換え大豆反対の動きから、大豆畑トラストがうまれた。共鳴する生産者と消費者とで、大豆をつくり、味噌や豆腐などの加工品も生み出す大きな流れが定着した。八郷の大豆畑トラストは、はじめからの仲間で、生産者の桜井さんを中心に、首都圏の消費者会員25名がとりくんできた。
 昨年は天候が思わしくなく、大豆の出来も良くなかったため、味噌にまわせる大豆は最低量だったと、桜井さんの言である。それでも大豆の脱穀、調製も無事おわり、奥さんの裕子さん手作りの米麹も上々のできばえで仕上がってきた。
 数日前から、気温が急上昇したため、八郷は一度に花がひらいた。桜井さん宅の、みごとな大木の白木蓮、こぶし、ぼけ、れんぎょうや、水仙などの小さな花もいっせいに咲きそろった。「東京からみんなが来るんだから、花がたくさんだと良いのにね」と裕子さんと話し合っていた ので、よけいうれしかった。
 当日のお昼ご飯は、裕子さんとわたしの担当である。里芋の煮付け、切り干し大根の煮付け、花芽をつけた菜っぱのおしたし、むかごごはんにお汁が裕子さん、わたしはじゃがいものサラダ、野菜のてんぷらである。春一番をごちそうしたいと、ふきのとうとよもぎを、加えた。
 味噌作りには、火が欠かせない。大きな蒸し器3段を重ね、大釜の下で、3時間くらいかけて、大豆が指先でつぶれるくらいのやわらかさになるまで、大きな火を燃やす。蒸し上がったところで、麹、塩、つぶした大豆を混ぜ合わせる。これが、東京勢の仕事である。両手でよくもみこみ、まんべんなく丸めて、最後は樽のなかにたたきつけるようにして、詰め込んでいく。1樽、2樽と仕上がっていくと、腰のいたみも忘れて、満足感が全身に満ち渡る。
 やがて、3時のおやつである。裕子さんはりんごのケーキ、わたしは手作りの小豆の蒸し菓子と、甘酒をふるまった。今年は、初参加の横浜からの2人もいっしょに女性7人と八郷勢をあわせて、おしゃべりのにぎやかなこと。一年分をまとめて話してしまう勢いだった。
 今年の仕事は3時で終わった。裕子さんが芹をつみ、おこわにまぜこんだご飯と、たくさん作り置いたおかずを包んでみんなに持たせる。家に帰り着いたとき、空腹で夕ご飯の支度をしなくてはならない主婦業への思いやりである。かえりみち、地元の温泉にたちよる二人のほかは、橋本宅に寄り道してもらった。冬野菜はすっかり、花が咲いている。もともと花と茎をたべる紅菜苔も花盛り。
 黄色い花をてんでにつんでもらって、あすのおかずだ。花瓶にさしてもいいと、 菜の花のほか、さきはじめた水仙や、ルッコラ(ハーブ)の花もつんでもらう。よもぎなども、お店では求められない品だし、八郷の春を感じ取ってもらうには最高だ。ひとときを戸外で過ごして、やがて東京の消費者は汽車にのり、わたしと裕子さんは、「今年も無事終わったね」と喜び合った。
 横浜からとどいたお礼状の一部を紹介しよう。「大勢で味噌を作るのは初めてのことだったので、とても新鮮に感じました。昔ながらの田園風景に囲まれていると、八郷にはほかとは違う時間が流れているような気がしました。この風景がいつまでも残ってくれるといいなと思いました。」

■味噌つくり−−その2

 わたしの家でも、一年に1回、味噌を作る。今年は大豆畑トラストに遅れて、6日午後と7日一日をかけて作った。大豆30キロ、米麹30キロ、塩15キロがうちの配合である。材料は全部購入である。大豆は秋田から、米麹は山形から、塩は天塩の共同購入と、すべて仲間内の有機農家のこだわりの品、蒸し器も和菓子屋さんから八郷の有機農家が譲り受けた品をくり回して使う。
 自前のものは、わたしたち二人の労働力と、薪,樽くらいだろう。二人して当日が良い天気であることを前もって確認する。なにしろ、火は戸外で燃やし、作業も火のそばなので、雨がふれば延期するほかない。まるで、加工だけのような我が家の味噌作りであっても、仕込んだ後の管理も念入りなので、味はどこよりも上と自慢の、手前味噌である。仕上がった味噌は、自家用の他、野菜を送り届けている消費者分も含めた量である。
 今年は天気も良く、大豆の出来が良かったので、煮上がりがスムース、ふたりきりの仕事ながら、手順も慣れて、味噌は順調に仕上がっていった。が、腰の痛みが心なしか、去年よりきついようだ。1年、否応なく年をとったんだもの、とつぶやいた。
 5日の味噌作りでは、料理担当だけだったので、いろいろ工夫して準備したが、肝心の我が家の食事は手がまわらなかった。お昼は、冷凍しておいた餅を食べ、夕食は作る元気がすっかり失せて、痛む腰をようやっと伸ばして、八郷温泉ゆりの郷へ出かけ、お湯につかり、JA仕込みの食材が売りの外食ですませたのだった。
 が、味噌つくりは、一年の仕事のうちでも、大きな節目となる。今年もふたつの味噌つくりが終わってほっとしたのが、正直なところだ。


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