カフェー、日の本に立つ

成田 国寛




■苦いおもひで
 子供の頃、親戚の家に遊びに行ったときのこと。
 本家のお姉ちゃんが美味しそうに何かを飲んでいるのをじっと見ていたら、それを飲ませてくれた。生まれて初めてブラックコーヒーを飲んだ瞬間だった。
 一口飲んで顔をしかめたら、美人のお姉ちゃんはクスクスと笑っていた。とても苦かったのと、大人の味がよくわからなかった恥ずかしさを今も鮮明に覚えている。
 コーヒーを飲む習慣がなかった私でも、社会人になって飲む機会がやたらと増えた。おかげで今では気分転換に喫茶店へ入るようになり、いつしかブラックでも飲めるようになった。おそらく体が慣れてきたのだろう。とは言っても、コーヒーの違いや良し悪しは未だによくわからないのだが…。
 コーヒーについて素人同然な私であるが、ひょんなことからコーヒーを調べる機会ができた。その結果に「!」がいくつもついたのでちょっとお伝えしたい。

■チャを超えた!?
 日本のコーヒー消費量はここ数年頭打ちと言われているが、それでも生豆換算で430万tもある。(※コーヒー消費量はインスタントコーヒーや調整品を含む。純粋な生豆輸入量は平成16年で401万t。輸入国ではアメリカ・ドイツに次いで世界第3位。平成16年度産水稲の収穫量が872万tだから、お米の国内生産量の半分!に相当)
 明治10年(1877)に18tしか輸入されていなかったことを考えると、日本にもコーヒー文化が根付いたと言ってよいのだろう。
1960年代から急速に消費が伸びたのは、喫茶店ブームや缶コーヒー・インスタントコーヒーの登場、そして洋食化が進んだおかげである。
 一方で、日本茶の消費は横這いから減少傾向にある。日本茶の生産量は、生葉収穫量では46万5千t(平成16年産茶生産量)、国内消費量は荒茶換算で9〜10万tほど。国内生産は減少し、輸入が減少分を補っている構図だ。
 数字上では、今の日本人はお茶よりコーヒーを飲んでいるといえる。もちろん1杯あたりの使用量が異なるので飲用量はそこまで差はないと思うが、実に驚きだ。そこで念のため飲用量も比較してみた。
 コーヒー1杯(150ml)に10gの生豆を使うとして、日本人1人あたり年間320杯(48L)ほどコーヒーを飲んでいることになる。計算では赤ちゃんやお年寄りも含まれるので、もう少し年齢層を絞ったアンケート(コーヒー協会実施)結果をもとにすると、1週間あたり10杯前後飲んでいる人が多いらしい。これだけ飲んでいるにも関わらず、1人あたりの消費量は世界のトップ10に入っていないことから、業界ではまだまだコーヒーの消費は伸びると期待されている。
 お茶はどうかというと、1人あたり年間で800gほどの茶葉を消費している。1杯(80ml)あたり2gの茶葉を使うとすると、年間400杯(32L)ほどになる。1日あたり1杯強というのはいくらなんでも少なすぎだろうと思いつつも、やはりコーヒーに負けてしまった。1日に1L以上お茶を飲んでいる私にとっては、なんかしっくりこないものの、世界を制覇しつつあるコーヒーに興味がわいてきたのも事実である。
 このように日本ではイケイケのコーヒーであるが、遠く離れた生産地は大変だった。しばらく市況が芳しくなかったのだ。ベトナムが一気に大生産地に躍り出て輸出攻勢をかけ、その余波で国際価格が大暴落、各産地に大きなダメージを残した。そうなると低価格で量を出すようになり、結果として悪貨が良貨を駆逐するようになる。コモディティー商品のサガである。(※昨年末よりコーヒー市況は回復傾向)
 こうなると、あの手この手で差別化が始まるのが世の常。日本でも遅ればせながら、スペシャリティーコーヒー協会が発足した。今後は、高品質のコーヒーの見直しが進むとともに、一部の商品の値段がますますあがっていくことになるだろう。

 たかだコーヒー、されどコーヒー。
琥珀色の液体の淵はとても深そうである。深みにはまって宗旨がえしないよう気をつけなくては…。

〜コーヒーブレイク〜
◆比較
近所のコンビニを調べてみた。
 6つ扉の冷蔵ケースがあるところでは扉一つ分がコーヒー飲料、扉二つ分がお茶系飲料だった。お茶系飲料、なかなかの健闘である。




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