しずみんの まう・まかん
お題:しょうが

水底 沈

 たれてくる鼻水を袖でふきがちな今日この頃、みなさまいかがお過ごしのことでしょう。
 こんな冷え込む宵には熱いしょうが湯をすすると、腹の底からほかほかと体が温まってくる。コーヒーや紅茶ばかりでなく、たまにはしょうが湯であたたまるティータイムもいい。日本にはこんなすてきなハーブティーが昔からあったのだ。

 以前バリ島のマッサージサロンで揉んでもらったとき、仕上げにしょうが入りの甘い紅茶をごちそうになった。
 そうじをしている女の子に「日本にもしょうが湯ってのがあってね。風邪気味の時に飲むんだよ」と言うと、「バリでもそうよ。冷え込むときにはテ・ジャヘ(しょうがティー)であたたまるのよ」とにっこり笑っていた。南国のバリで冷え込むとはこれいかに、と思うだろうが、雨の降り続く夜や高原地帯では、半袖ではいられないほど寒いことがあるのだ。
 後にスーパーで「ジャヘワンギ」という名前のしょうが湯を買ってみた。日本のしょうが湯にとろみがついていない感じの、親しみやすい味であった。

 しょうがの漢名は「薑(きょう)」。「百邪を防ぐ」という意味通り、しょうがには殺菌・食用増進の効果がある。魔よけなどにも使われ、日本では「しょうが節句」をもうけて各地の神社でしょうが市が立ったそうだ。今でも、東京芝大神宮やいわき飯野八幡宮などで9月にしょうが市が行われている。

 日本のスーパーで売られているしょうがの大半は「大しょうが」である。台湾では水薑(すいきょう)と呼ばれている。水っぽいからだ。大きく品種改良するうちに、辛みが薄れていったらしい。本来の辛いしょうがからは、ガリは生まれなかったであろう。
 しょうがが中国から日本に伝来したのは天平時代のことで、明治時代までは辛い小しょうが「日本のしょうが」であった。明治時代以降、大しょうがが栽培されるようになり、最近はもっぱら大しょうがが幅を利かせている。輸入品も多いようである。

 東南アジアの市場には、様々な種類のしょうがの仲間が売られている。「これは●●、これは●●」と何度説明されてもわからなくなってしまう。みんなしょうがに見える。彼らは、これらのしょうがや唐辛子、にんにく、数種類のドライスパイスを石鉢でたくみにすり混ぜて、毎日のごはんをこしらえている。
 タイのトムヤムクンに欠かせない、カー(大ガランガル)、切り口が鮮やかなオレンジ色のターメリック(うこん)、手の指のようなクラチャイ、ぽくっと割るとさわやかな揮発香のある、クンチュール、などなど。インドネシアで「ジャヘ」と呼ばれているのが、日本のしょうがとほぼ同じ風味だが、香りや辛みはずっと濃い。いつもの調子でそうめんの薬味などに使えば、火を吐くことになるであろう。
 スパイスというと、乾燥した粒状のこしょうや唐辛子などを連想しがちだが、アジアではこういった新鮮なスパイスも毎日の食卓に欠かすことができない。

 なお、しょうがは熱帯性の作物なので、保存温度が高いと発芽し、低いと腐敗する。買ってきたしょうがは、土付きの場合は洗って乾かし、きれいなものはそのままで、台所の乾燥した場所に保存する。

copyright 1998-2001 nemohamo