いまさら聞けない勉強室
テーマ:ゴールデンライス

牧下圭貴

■ゴールデンライス
 ゴールデンライスとは、スイスの研究所がロックフェラー財団の支援を受けて開発した遺伝子組み換えイネのニックネームです。新聞では「黄色米」とか「黄金米」という表現をしていたところもありますが、最近は「ゴールデンライス」という名前に定着しました。
 英語でも「Golden rice」です。
 その名前のとおり、米粒が黄色くなります。体内でビタミンAにかわるベータカロチンが含まれているため米が黄色になるのです。イネに、ラッパ水仙の遺伝子とバクテリアの遺伝子を組み込むことで、本来イネにはほとんど含まれていないベータカロチンを生みだすことができるようになりました。複数の遺伝子を組み込むため不可能と言われていた技術だそうです。
 開発者や、ロックフェラー財団などは、飢餓貧困地域ではビタミンA不足により健康障害や失明などが起こっており、このゴールデンライスによってビタミンA不足を解消することができると発表しました。ゴールデンライスを生みだすのに欠かせない技術の特許権をもつ、多国籍バイオ企業のモンサント、シンジェンタ(旧アストラゼネカ)、バイエルらは、人道的な目的に限って特許権の無償使用を国際稲研究所に与えました。
 今年より、フィリピンの国際稲研究所とインド国内で地元品種のゴールデンライス化するための研究開発がはじまります。だいたい5年ぐらいでできるのではないかとされています。

■その黄金は誰のため
「飢餓や貧困、そしてそれにつらなる栄養不良による健康障害を改善する」このことはまったく正しく、人道的で、人類の抱える大きな課題です。
 ゴールデンライスは、一見、まったく反論の余地がないようにも見えます。
 けれども、そもそも飢餓や栄養不足の問題は、食料の生産不足が原因ではありません。幸いなことに、現在までのところ、全地球的に見れば食料生産量は全人口の必要量よりたくさんあります。それなのに、現実に飢餓地域、栄養不足人口が減らないのは、ひとえに世界的な食料の分配の問題です。
 この日本をみればとても分かりやすいのですが、自給率は低くても世界中から金にあかせて食料を買いあさることで、十分すぎる食生活を送ることができます。しかも、もともと日本では土地や気候風土からみてもっと高い食料生産能力を持っているのに、活用していないのです。
 一方で、食料輸出国でありながら、国内に栄養不足人口を抱える国もあります。フィリピンやインドネシアなどでは、日本などに向けた食料輸出を行っていますが、国内に栄養不足層もいます。日本にエビを売って、そのお金でコメを買って国内の栄養不足をおぎなっているならばともかく、ただ食料はその国から出ていくだけです。
 こういう「分配」の問題を解決しない限り、飢餓や栄養不足を減らすことはできません。
 ゴールデンライスを免罪符にしてはならないはずです。

■緑の革命
 1962年、ロックフェラー財団とフォード財団によってフィリピンに国際稲研究所が設立されます。中南米などでのトウモロコシ、小麦による「緑の革命」をイネでもはじめるためでした。「緑の革命」とは、品種改良、農薬、化学肥料の多用、かんがいにより水を豊かに使えるようにすることで、単位あたりの収穫量を上げる技術のことです。
「緑の革命」は、世界の飢餓を救う画期的な技術として世界中から注目を集めました。実際に、1970年代から80年代を通して、フィリピン、インド、インドネシアなどで、コメが増産され、多くの国で自給達成や輸出ができるようになりました。
 しかし、90年代に入り、緑の革命は頭打ちを迎えます。生産量の横ばい、あるいは、化学肥料の使いすぎ、水資源の枯渇などで生産量の減少さえ引き起こし、工業化による農地減少もあってインドネシアやフィリピンはコメ輸入国に逆戻りしています。
 緑の革命は、国単位でいけば増産=食糧自給を一時的ですが達成し、成功したとされています。しかし、その一方で、改良品種の種子購入、農薬、化学肥料、かんがいのための土地整備、農業機械の導入など、農業は「お金のかかる」ものになってしまいました。
 そのため、それまでの自給作物を中心とした零細農民は緑の革命のために借金をしたり、土地を奪われてしまいます。農業は大規模経営中心になります。零細農民は農業で生活が成り立たなくなり、貧困、栄養不足層へと追い込まれました。少数の経済的に恵まれた大規模農家と引きかえに緑の革命は、もっとも救うべき人々を苦しめていったのです。緑の革命は、決して世界の飢餓を救いませんでした。そのため、緑の革命を批判するアジアのNGOや農民組織が多数あります。
 この緑の革命を推進したロックフェラー財団・国際稲研究所はゴールデンライスの担い手です。

■黄金にまどわされたくない
 JT(日本たばこ産業)の子会社で遺伝子組み換えイネの開発を進めているオリノバは、ゴールデンライスを日本やアメリカ向けの機能性食品として将来的に販売することを検討しているという報道があります。
 今、日本では遺伝子組み換えイネの研究開発に官民・外資上げて取り組んでいます。これまでの除草剤耐性や殺虫性もありますが、鉄分増強や高血圧予防、ヒトの母乳に含まれる免疫を高めるタンパク質を生みだすイネなどの研究もさかんです。
 これまで、遺伝子組み換え作物は、ヨーロッパを中心に人体と環境への長期的な影響に対して不安がもたれてきました。また、世界でもっとも遺伝子組み換え作物の輸入量が多く、おそらく世界でもっとも遺伝子組み換え農産物を口にしている日本でも、全国的な反対運動によって2001年4月から不完全ながらも表示制度ができました。さらに、アメリカでも未承認組み換えトウモロコシ「スターリンク」混入事件によって、消費者の不安が高まりをみせており、連邦政府、バイオ企業、環境保護団体によって遺伝子組み換え食品を協議する組織の調査でも75%の人が食品中に遺伝子組み換え食品が混ざっているかどうかに関心をもつことが明らかになりました。
 アメリカなどの生産者も、遺伝子組み換えではコスト的にもうからないことや消費者の指示が得られないことから、組み換え作物の作付け量は、増加傾向にあった99年までと異なり、2001年では減少に向かうと見られています。
 そんな中、大手バイオ産業がこぞってゴールデンライスの「人道的」側面をアピールしています。そのアピールの裏に、遺伝子組み換えのイメージ向上のための道具として貧困や栄養不足が使われている気配があまりにも濃厚です。

「飢餓や栄養不足をおぎなうためにできること、やらなければならないことは他にいくらでもある。ゴールデンライスを食べさせられるようなことになりたくない」と、先日遺伝子組み換えイネの反対集会に参加した東南アジアのNGOは訴えています。


遺伝子組み換えイネ監視市民センターホームページ http://www.gmrwatch.org

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