しずみんの まう・まかん
お題:みそ

水底 沈

●とにかくできる
 19の頃から、味噌を仕込んでいる。別に添加物がコワイだとか手作り志向だとかそういうのではなくて、「味噌が作れる」というのがなんだかとてもカッコヨク思えたからだ。
 東京のせまいアパートの台所で半年がかりで完成した味噌は、なんだかとっても味噌っぽくていやに感激したのを覚えている。
 豆・塩・麹、たったこれだけをこねくりまわしてほっておくと、ちゃんと味噌のにおいの食べものになるのだ。
当たり前だが、ふしぎなことだ。
 最初は、麹を手に入れるのに苦労した。
 都市部ではなかなか生の麹が手に入らない。
 今ならネット通販を利用していろんな種類の麹が簡単に手に入るが、その頃は何しろ、麹探しが味噌作りの最大の難関であった。
「都こうじ」などの、ちょっぴりしか入っていない板麹をたくさん買い込んで、原価の高い味噌をこしらえてみたりもした。
 その後静岡に引っ越したら、近所に「麹屋」というものがちゃんとあって、いやに簡単に、いつでも麹が手に入るようになった。その街は古い城下町で、「はちみつ屋」だの「三味線屋」だの、そこんちの婆さんが死んだらハイおしまい、というようなマニアックな店がたくさんあったのだ。

 味噌作りは、やけに簡単だ。
 もちろん、大豆はタンパク質が多いので柔らかく煮るのにそれなりの時間はかかるので「ちょっとCMの合間に」というわけにはいかないが、私のようにいい加減な器具の消毒や、「冷暗所」というもののないアパートの台所でも、それなりに食える味噌ができる。
 瓶に詰めた時には「あー、なんかゆるい…今年は失敗かなあ」と思っても、半年後にはいつもとだいたい同じような味噌に仕上がっている。
 これは梅干し仕込みの時にも同じことを思うのだが、時間がかなりのことを解決してくれているようである。

●手前味噌
 そして面白いのは、台所によって味噌の味がものすごく変わる、ということである。
 以前、友人といっしょに味噌作りをして、できた「味噌生地」を半分分けにし、各々持ち帰って自分の台所で熟成させた。
 半年後、できあがった味噌は「麹の種類が違うのではないか」と思うくらい、色も固さも味も違うものであった。
 なんでだ。ふしぎだ。
 かくも近代化されて「へっつい」や「土間」からかけ離れてしまったようなキッチンにも、その家その家の「かまどの神」が住み着いているようである。
 ちなみにうちでは毎年米糀のと麦麹と2種類の味噌をこしらえるが、できあがりはやっぱり同じような味になるんである。
 かまどの神も、なかなかやりおるわい。

【つゆまめ】
材料/
ゆでたての大豆…1カップ
そばつゆ…1カップ
作り方/
(1)大豆は、指で簡単につぶせるぐらいに柔らかくゆでる。

(2)ゆであがった大豆を、濃いめのそばつゆに浸ける。

(3)そのままさまして、よく味が染みたらできあがり。

※たったこれだけですが、炊きたてごはんにたっぷりのせて食べるとなかなかの飯の友になります。

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