海外レポート
マレーシアの有機農業と有機食品のマーケティングに関して

鈴木 敦

1.はじめに

 2001年2月2日から7日にかけてマレーシアの有機農業および有機食品のマーケティングの現状を調査するため、クアラルンプール周辺の有機農業生産者および有機食品店を訪問・視察した。

2.マレーシアの農業の概要

 農地のうち32%がパーム油、21%がゴムの栽培地であり、マレーシアの農業はこれらの生産と輸出に特徴づけられる。マレーシア政府はこのような輸出産品に係わる農業分野を重要視してきたが、その他の農業分野の推進や自給率の向上に関しては実質的な行動をとっていない。伝統的農業は生産性向上を目的とした化学物質の投入促進の時期を経て、現在は見られなくなった。
 食糧生産は主に米はマレー系、野菜は中国系の生産者に分類され、これは中国系住民がその食生活に多種類の野菜を要求することによるものである。このような野菜の主要な供給地であるキャメロンハイランドは化学肥料・農薬多投入が問題となっている。また低地での農業においても借地において化学物質を多投入し、地力が低下すると他のところへ移動するといったことが行われている。

3.マレーシアの有機農業の現状

 マレーシアの有機農業は1980年代の半ばより発展してきた。しかし政府の有機農業に対する補助政策あるいは技術支援はなく、生産者自身の努力または国内外のボランティアの支援に頼らざるを得ない状況下で、現時点での有機農業生産者数は全国でおよそ30名ときわめて少数であり、有機農業は社会的に十分な認識を得ていない。一部の生産者および流通グループにおいて海外の認証団体の検査・認証システムを導入し有機認証を行っているが、有機農業を水耕栽培の一種と混同している生産者・消費者も多く、また自称「有機」農産物が出回り、「有機農業」または「有機農産物」の定義が混乱している状況にある。このような中で政府、企業およびNGOが参加した有機農業基準づくりがCODEX基準をもとに進行しており最短で今年中に策定されるとのことであった。

4.有機農業の生産技術

 有機農場の耕地面積は1〜4haとのことであった。いずれの生産者も輪作体系にマメ科を導入し、多品目を作付けしている。各農場で入手しやすく、安価なものを材料(羊の糞、鶏糞、サトウキビ粕、ヤシ粕、除草した雑草等)とした堆肥またはボカシづくりしている。生産上での問題点はスコール対策とのことである。雨期、乾期を問わず降るスコールは播種後の種子や実生を流出させ、また葉もの等のトロケの原因となっているとのことであった。その防止策としてビニールやネットを用いた雨よけ栽培を行っている。病害虫についてはミバエによるトマト、ピーマン等の果菜類やパパイヤ、マンゴー等の果実に被害はあるものの大きな問題はないとのことであった。雑草管理についても問題点は聞かれず、ヤシ粕でのマルチやスコールによる表土流出防止のためあえて雑草を残し、裸地部分を極力残さないようにしている等各自工夫をしていた。
 マレーシアの有機農業では農業労働者を雇用しているのが一般的のようであり、今回視察した農場(個人農場1ha)においても4人のインドネシア人が働いていた。以上のようにいずれの農場でも有機農業の基本を理解し、地域の事情を考慮した営農を行い、トラクター等大型機械はないが、雇用労働力により良く整備されていると思われた。


5.有機農産物の流通

 マレーシアの有機農産物および有機食品の流通は店舗販売が主流であり、有機食品店はマレーシア全体には約100、クアラルンプール近辺では約30店舗以上、オーガニックカフェはそれぞれ約20、3店舗あるとのことであった。
 スーパーマーケットでの有機食品の取り扱い数は野菜が10数種、加工品数種と限定されたものであった。野菜は葉ものは地元産で海外の認証団体の認証を受けたものが多く見られたが、ニンジン、ブロッコリー等はオーストラリア産、アメリカ産のものであった。
 有機食品店はいずれも小規模であり、ほとんどが中国系の経営であった。このような店舗の購買層も健康に関心のある中国系住民で、サプリメントも揃え健康食品店といった様相のところもあった。品揃えは穀類、調味料、ベビーフード、その他加工品が主であり、生鮮野菜、果物等の農作物は20種程度であった。農産物の扱いは小売店においてもスーパーマーケットと同様に有機認証された国内産、認証の受けてない国内産および認証された輸入品といったものであった。国内産、輸入品の選択は農産物の保存性により行われているようであり、葉ものを主とした生鮮野菜は国内産、比較的日持ちするニンジンやジャガイモ等は輸入品が多く見られた。輸入品の場合、圧倒的にオーストラリアからのものが多く、これは地理的にも近いことに加え、オーストラリア政府による流通経費補助があるためとのことであった。
 卸売業では販売価格を抑えるため有機認証された穀類等をバルクで購入し、小分けして販売している。ラベルには"Organically grown"等の表示のみで小分け業務の認証を取得し、認証団体のマークを添付することは考えていないようであった。現状では有機認証の意味が消費者に十分に浸透しておらず、小売店経営者としても経費をかけ認証マークを添付し、商品の信用を得る必要性はないと考えているように思われた。一部の生産者・流通グループですでに行われている国内農産物の有機認証についてはその生産地がこれまで著しく化学物質を使用してきたこと、慣行農業の中に点在しその影響を受ける可能性があることなどの理由で疑問視しているという声が経営者、生産者の一部からから聞かれた。有機農産物の信用獲得という点では興味深い取り組みを行っている集荷・卸売業者が見られた。その業者は60〜80km圏内の4生産者の野菜の集荷・リパックし、20以上の小売店に卸し、また近隣の消費者にも直接販売している。経営者は定期的に顧客である小売店経営者や消費者を生産現場へ連れて行くことにより重視し、信用を得ているとのことであった。
 国内産有機農産物の価格は慣行農産物の価格をもとに決められてい場合が多いとのことであった。あるスーパーマーケットではレタスの価格が有機栽培、慣行栽培の順に1.80、1.39 RM/100g、トマトは1.26、0.85 RM/100gとであり、有機栽培は慣行栽培に比べ30〜50%割高となっていた。スーパーマーケットでの販売は3日間の陳列後売れた分だけの代金が支払われるといった委託販売形式の場合が多く、生産者にとっては不利な条件となっているとのことであった。

6.まとめ

 マレーシアの有機農業はまだ十分に一般消費者に浸透しておらず、関係者の間でも有機農業や有機農産物の定義が混沌としていて混乱状態にある。このような中で今回調査した生産者および流通業者のほとんどが有機農業またはそれに関係する事業を始めて2〜3年であり若い人が多く、今後の有機農業の発展が期待される。
 マレーシアの有機食品の市場はすでに有機食品店も多数存在しているが、アジアの中で経済発展を遂げ国民の生活水準が高いことから、潜在的な市場は大きく、さらに発展する余地があると思われた。
 市場開拓の方法として、提携や直接販売等のオルタナティブ・マーケティングは有効な手段であり、すでに行われているそのような取り組みや、道路等のインフラストラクチャーが整備されている、携帯電話等が普及し通信手段が確立されている、生産者が自動車またはトラックを所有している、農場において雇用労働力が導入できる、といった条件が揃っていることから工夫次第で発展する可能性があると思われる。

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