チレチレ便り チリってどこ?
池田久子

「チリってどこだっけ? 南米だよね、確か細長ーい国でしょ、遺跡かなんかあるのかなあ。最近ワインで有名だよね。昔、軍事政権だったんだよね」恥ずかしながら今から半年前の2月、自分がこれから2年暮らすことになる国についてのイメージはこれくらいしかなかったものです。チリは日本から最も遠いといってもいいくらいとにかく遠い国。そして南米の中でも陸の孤島のような国。チリとはアイマラ族の言葉で「地果てるところ」を意味するそうです。また、チリは神様が世界を作ったときに余っていたすべての美しいものを最後に放り込んだとも言われます。北には砂漠があり、西には海があり、東には標高6000メートルを越すアンデス山脈、そして南には南極を控えて動植物の豊かなパタゴニア地域があるわけです。

 この国で私は2年間青年海外協力隊の村落開発普及員という職種で働くことになり、1カ月前にやってきました。今は北部の砂漠地帯にできた大きな町アントファガスタでホームステイをしながら語学訓練中ですがそれも今週で終わり、来週には任地となるサンニコラス村に赴くことになります。そこの村役場に入って地域の零細農家の生活改善のお手伝いをするというのが私の任務なんですが、果たしてどうなることやら。今は語学だけでも苦労の連続です。日本にいるときから通算すると4カ月近く語学訓練を受けているわけですが、語彙はまだまだだし、常に動詞の活用や男性型・女性型を間違え、苦しんでいますが、最近は周囲の人の話す言葉が、カタカナで表す何かの「記号」ではなく感情を伴った「言葉」として聞こえてくるような感覚がでてきました。例えば、「ありがとう」、だったり「気を付けてね」だったり、「かわいそうに」だったり。それがその人の感情から出ている言葉なんだっていう、そんなあたりまえのことがあたりまえに気づけるようになってきました。何をあほな事を言っとるんや、と思われるかもしれませんが、語学の苦手な私にとっては日本語以外でいろんな事について話をしたり一緒に暮らすのは初めての経験。旅行で片言の英語や現地語を話すことはあったけれど、言葉と感情が切り離せないものとして一緒になって理解できるようになったのは初めて。あと2年、きっとなんとかやっていけるだろうという、安心感とかすかな自信がついた1カ月でした。

 これからチリの衣食住、農業や環境や食についての雑感をなるべくご報告していきたいと思っています。こんな遠い国でもとっても素敵な人たちが、とっても楽しく暮らしているよっていうことを伝えられたら…。
 とはいえチリの食、環境なんていっても、今の私の語学力では統計的なことは何も分からないので、今回は毎日食べている食事についてです。
 ここに来る前はチリの食事は肉が多くて油っぽく塩辛い、お菓子は頭が痛くなるほど甘すぎるって聞いていたのでびびっていたのですが、来て見るとさにあらず。うちのホームステイ先のママの作る食事は野菜が多く塩分ひかえめで、毎日とてもおいしく食べています。
 食事は、基本的に昼食が一番家族の団欒のための大事な時間となり、職場も学校も昼食のための時間は2時間昼休みとなります。例えばうちのママは学校で働いていて、朝8時に行くためにパンと紅茶くらいを7時半ころにとって、バスで10分で職場へ行きます。1時に終わって1時過ぎに帰ってきて、昼食をこしらえ皆で2時前後にそろって食べます。3時までに職場に戻り、7時まで仕事をして7時半ころに帰宅し、8時すぎころ紅茶とパンくらいをとります。私もだいたいこんなかんじの食生活にすっかり馴染みました。だからまともに食事をするのは昼だけ。もちろん家族によって違うので、なんとも言えないけれど、ほかの家にお邪魔してもやっぱりこんなかんじでしたから、昼ご飯をしっかり食べて後はパン程度というのはまあ普通なのでしょうね。
8月12日 日曜日 チリ アントファガスタにて

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