いまさら聞けない勉強室
テーマ:味噌はなにからできている?

牧下圭貴



 味噌は、醤油と並んで日本の伝統的な調味料として今も日常的に使われています。
 奈良時代ころに中国大陸より日本に伝わったという味噌。明治時代までは、各家庭で仕込むのが当たり前だったようで、「手前みそ」という言葉は今も使われています。

●味噌づくり
 味噌は、米味噌を例にすると、米と大豆を蒸してさまし、米には麹菌をつけて酒造りなどと同じように麹をつくります。そして、麹と大豆を合わせてさらに、塩を加え、酵母、乳酸菌の助けを借りて仕込みます。時折天地返しをして、寝かせ、半年から1年、2年と熟成させて仕上げます。ちなみに、家庭では、一般的に麹に塩を合わせた塩麹と茹でた大豆をつぶしたものを合わせて仕込みます。
 このようにとても単純な方法ですが、種付けする菌は麹かびだけで、あとの酵母や乳酸菌は味噌蔵や家庭・人に住みついている菌を利用して複雑な家庭を経てできあがっています。

●原料と添加物
 主原料の大豆は、自給率がとても低い作物です。大豆の輸入は北米大陸が多いですが、味噌や納豆として使うたんぱく質の多い大豆は中国大陸からの輸入品がほとんどです。
 また、もともと保存食の味噌ですが、保存を目的として保存料のソルビン酸の使用が認められ、一部の味噌には今もソルビン酸が使われることがあります。最近ではソルビン酸ではなく、品質保持を目的としたアルコールを使うケースが多くなっています。その他、添加物として、着色料(ビタミンBなど)や調味料(アミノ酸等)が使われる場合があり、購入する際には注意が必要です。
 さらに、一般的な技術として温度を比較的高く保ち、熟成を早める温醸法(速醸)が使われ、1〜3カ月で出荷されることもあります。

●味噌の種類
 味噌には、米味噌、麦味噌、豆味噌と3つに分けられ、米8:麦1:豆0.5ほどの割合で生産されています。もちろん、米味噌も麦味噌も原料には大豆が含まれます。
 麦味噌は、九州・四国・中国地方で好まれ、豆味噌は愛知、三重、岐阜で好まれています。それ以外の地域は主に米味噌です。
 また、味により、甘味噌、甘口味噌、辛口味噌があり、色も白、赤、淡色など様々で、好みも人によって様々です。甘口、甘味噌の順で麹歩合が高くなり、塩分は少な目です。

●味噌と微生物
 味噌を作る微生物は、麹菌と、酵母と、乳酸菌です。
 麹菌……大豆や米などのタンパク質やでんぷんを分解する酵素を作り出します。味噌ができる前に麹菌は死滅しますが、酵素はずっと残って熟成を助けます。
 酵母……味噌の香りを作ります。アルコールなど芳香成分が酵母の発酵によって生まれるのです。
 乳酸菌……乳酸を生み出し、酸味を出すとともに、雑菌の増殖を抑えます。
 味噌は、この3種類の菌がうまく活躍してはじめてできあがります。そのために、上手な塩加減が問われます。また、それぞれの菌の種類によって微妙な風味の違いが生まれます。同じ原料、同じ製法でも蔵や家庭によって味が違うのは菌の違いによるものです。

●味噌の効能
 味噌は、すぐれた栄養食品でもあります。「畑の肉」大豆を丸ごと使うだけでなく、大豆の栄養を菌が分解することで吸収しやすくしています。さらに、発酵によって、うま味だけでなく、ビタミンB群やE、そのほか多くの酵素など身体に有用な成分が生まれます。
 抗酸化作用やコレステロール抑制作用が知られています。
 肉や魚の味噌漬けなどが保存食として作られますが、これは、味噌のタンパク質がにおいを取るだけでなく、味噌自身が大腸菌や有害菌を殺す作用を持つためです。味噌の恐るべき力を存分に発揮したのが「フグの白子漬け」です。猛毒成分が何年も味噌に漬け込むことで、分解されるのですから、たいしたものです。考えた人も、最初に食べた人もすごいと思います。

●生かしたまま使う
 味噌は生きものです。麹の酵素や酵母、乳酸菌は生きたまま。だから、味噌汁を作る際には煮立つ寸前に火を止めるのがコツ。料亭などでは、味噌を椀に入れ、そこに熱しただし汁を注ぐ方法をとります。日々の料理ではそこまでしなくても、熱しすぎはおいしさを損ねます。もちろん、しっかりと煮込むことでおいしくなる料理もありますので料理次第ではありますが…。
 さて、味噌を生かすわけは、香りや味が最も引き出されるとともに、栄養としても優れ、さらに生きた菌により腸内を整えてくれるからです。ちなみに、味噌は、室温20度を超えると、さらに発酵が進みます。保存する際は冷蔵庫や冷暗所に置きたいものです。

参考資料:『おいしい微生物たち』野尾正昭(集英社)、『発酵』小泉武夫(中公新書)

本文は、過去に書いた文章を加筆・修正したものです。

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