ちれぢれ草「社会・文化編2」 2001.12.30
池田久子


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〜〜〜〜  ちれぢれ草 〜〜〜〜 6巻  「社会・文化編2」 2001.12.30
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「 ちれぢれ草」は、チリ共和国に青年海外協力隊の村落開発普及員として
赴任しているわたくしが、日本から17000キロ離れた任国チリを少しでも知
っていただきたく、日々雑感を徒然なるままに綴ってお送りさせて頂きます。
ご不要の方はお手数ですがご連絡ください。   送信者:池田久子
 
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今日は30日、もう日本はすっかり暮れの準備も整って・・・といったところで
しょうが、正月よりもクリスマスのほうが大事、クリスマスよりも建国記念日
のほうが大事というチレでは大掃除も正月の準備もなく、なんだか拍子抜
けするくらい日常的な年末です。

さて、チレではどんなクリスマスを過ごすのかと日本からのメールでよく聞か
れました。特にびっくりしたことはないけれど、なかなか楽しいものでした。
イブの過ごし方は各家で違うでしょうが、うちではイブの夕方から小母さん
の作ったコラ・デ・モノ(猿のしっぽという意味)というお酒を飲んだり、干し
葡萄やクルミなどがたっぷりはいったクリスマスケーキをつまみ始めました。
このお酒は、牛乳、コーヒー、蒸留酒、卵の白身、砂糖、それからかんきつ
類の皮、クローブ(香辛料)で風味をつけたお酒で、カルーアミルクのような
味わいでなかなか美味。それからポンチェといって白ワインにフルーツ(苺・
桃・パイナップル・チリモヤなど1種類)を細かく刻んでお砂糖も加えたジュー
スのような軽いお酒も飲みました。このポンチェは週末などよく飲みますが、
さっぱりしておいしいのでつい飲みすぎてしまいます。

 さて、9時すぎて少し薄暗くなってからきちんとした夕食が始まりました。
メニューは鳥モモ肉のオーブン焼き、牛の骨付き肉、七面鳥の煮込み、
マヨポテトサラダ、ビーツサラダ、インゲンサラダ、トマトサラダなど。
いつもは私含め4人の食卓ですが、結婚して近所に住む娘のヒメナと彼女
の夫マウリシオ、娘のフェルナンダ、それと数ヶ月前夫と別居し、甥のマウ
リシオを頼ってこちらに引っ越してきたエルバ小母さん、この8人での賑や
かな食卓となりました。この日はさすがに皆おしゃれをし、テーブルクロスも
紙ナフキンも普段より上等のものを使いました。私も日本から送ってもらった
浴衣を着たら、ものすごく喜ばれ照れるほど誉められまくり70歳のエルバ
小母さんまでも「着物欲しいわー」と羨ましげでした。

さて、外のテラスでの食事も終わると、部屋の中に入ってデザートを食べな
がら音楽を聴いたりおしゃべりしたりしてクリスマスツリーの傍で時間を費や
します。ツリーの下にはイエス誕生の際を模した、マリア様や神官、動物た
ちの置物が、刻んだ藁の上に並べられており、その周りにはプレゼントが
30包みくらい置かれています。フェルナンダが早くプレゼントを開けたがる
のですが、イエス様が生まれていないからダメと言われ、みんなも手持ち
無沙汰ながら待ちます。11時40分ころになって皆しびれをきらし、さあ、
じゃあそろそろ始めようかとなり、藁の中に隠してあったイエス様をごそごそ
と引っ張り出して中央に据え、これでお生まれになった。さあ、これからプレ
ゼント交換が始まります。フェルナンダがひとつづつプレゼントを手にして
「○○から××へ」と読み上げると××さんがおおげさに喜んで受け取りに
行き、○○さんのところにチュッとベソのあいさつをしに行きます。

これがうちの家族4人が7人分のプレゼントを並べておくのでざっと28回
繰り広げられるわけです。さて、これが終わったらエルバ小母さんの家に
移動です。今度はエルバ小母さんから7人分のプレゼント交換、そして最
後にヒメナの家に行ってまたプレゼント交換。すべて終わったのは1時半
くらいだったか。それからクンビアやサルサなんかを2時半くらいまでしば
らく踊ってからお開きとなりました。
 
 今回のクリスマスで、つくづくと温かい家庭にホームステイしている幸せ
を実感しました。イブの夕食時のあいさつで「家族が全員つどい、そして
今年はチャコとエルバさんもここに集っていることを感謝します」と言いな
がら思わず涙ぐむ小母さんを見て、まだ仕事や言葉ではもどかしい思い
ばかりしていますが、ひとつの家族にこんなに大事にされて暮らせるこ
とに感謝し、私もこの1年の自分をふりかえり胸がいっぱいになりました。

今年は世界的に激動の1年で、戦争、国家、民族、文化、宗教などにつ
いて皆が自問自答した1年だったと思います。私にとっても文化、習慣、
言葉の違いに苦しみぬいた(まだ苦しんでる・・・)1年でしたが、それらを
乗り超えて人と人の間に信頼関係は築きあえるものだということを体で
実感した1年でもありました。顔の見える人間同士の信頼関係を築いて
いくことが、世界で起きている民族と民族、国と国の対立という大きなう
ねりの前の小さな小さな防波堤となり、いつかその堤が積み重なって大
きな対立を阻む勢力になっていくことを心静かに願う、そんな年末です。 

どうぞ皆様よいお年を。そして来年もよろしくお願いいたします。

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