ちれぢれ草「仕事編1」 2002.2.18
池田久子

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〜〜〜〜  ちれぢれ草 〜〜〜〜 9巻  「仕事編1」 2002.2.18
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「 ちれぢれ草」は、チリ共和国に青年海外協力隊の村落開発普及員として
赴任しているわたくしが、日本から17000キロ離れた任国チリを少しでも知
っていただきたく、日々雑感を徒然なるままに綴ってお送りさせて頂きます。
ご不要の方はお手数ですがご連絡ください。   送信者:池田久子
 
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これまで一度も仕事について書いてませんでした。以前は自分の無能さに
落ち込んでばかりでしたが、赴任してそろそろ半年。最近はいい具合に諦め
や希望を持てるようになってきて以前よりすっと毎日が楽しくなり、笑顔や
冗談が自然に出るようになってきました。
今週から休暇をとって長期旅行に出てしまうので、今日明日、どんとまとめて
仕事について報告します。

 さて、私は「貧困農村地域の地域開発サービス」を行うPRODESALという
事務所に所属しています。このPRODESALは農牧庁が貧しい農村地域に
職員を派遣する事業で、うちの村は私の上司で農業技術者クラウディア27歳
女性と、農業技師でこの村出身、先日結婚したばかりのフェリシアノ32歳、
そして弁護士秘書を兼ねた秘書エリカ24歳がいます。

 サンニコラス村は半乾燥地帯で、だいたい11月から3月までの晩春から初秋
は雨がなく、灌漑設備がなければ何も収穫できないほど乾燥します。この村
から2時間ほどの地域では平地で灌漑も発達し小麦地帯、ジャガイモの産地
もありますが、ここは平地が少なく丘が多く、土は粘土質。井戸をほって電動
ポンプで揚水し、畑の畝の溝に水を灌漑するか、チューブによる点滴灌漑で
果樹や温室栽培などをしないと「儲かる」農業は到底営めません。

農家は所有面積が数ヘクタールから数十ヘクタールまで。車を持っている
農家はほとんどなく、馬1、2頭で馬車をひかせているのが一般的。
農業機械も所有しておらず、畑の土を起すのも馬に鋤をひかせています。
畑仕事は力仕事が多いせいもありますが、日本の農家女性のように男性と
同じように畑に出て汗を流していることはほとんどないようです。すべて馬が
頼りの農作業ですが、小麦の収穫は大型機械を借り地域で一斉にやってしま
うようです。昔はミンガと呼ばれる地域の相互扶助作業で、皆が集って一日
お祭りみたいに楽しかったのよ、と教えてくれた農家の主婦もいました。

 家畜は豚、羊が数頭いるかいないかで、庭には鶏が数羽、犬や猫がうろうろ
しているといったかんじ。家庭菜園ではだいたい20種類ぐらいの野菜を作って
いるのが平均的で、庭にはぶどう棚、果樹、日陰を作ってくれる大きな木なん
かがあり、ぶどう棚の下で食事をとったりくつろいで過ごします。夏でも日陰に
入れば涼しく、蒸し暑い日本とは違ってずっと過ごしやすいのです。

 村を貫く国道から見える景色は、今はカラカラに乾いた黄色い枯れ草とその
間の緑色は棘のあるサンザシだけ。冬にこの村を通った隊員からは「本当に
なんっもない寂しい村だね」と評されてしまったのですが、慣れるとそれなりに
美しいのですが確かに案内できるような観光資源は何もなく、面積的には広く
道が悪く、現場出張に時間もかかります。

さて、自給自足的な農家が、灌漑施設を整備したりビニールハウスを建設し
トマト栽培に取り組んだり、その資金的サービスや技術サービスを行うのが
PRODESAL。私のほかチリの協力隊員の数人はこのPRODESALに所属し
ており、聞くところによると1事務所に2、3人で大学卒の若い農業技術者か
農業高校卒の中堅技師らが勤めているようです。
 
 8月の末に赴任したすぐは約150の農家台帳を整理してパソコンに打ち直し
ながらよく使う農業用語を調べたり、現場出張につれていってもらったりして
ました。毎月1回PRODESAL対象農家9地域では定例会が持たれるので10
月には、時間に余裕があった4つの地域定例会で30分から1時間程もらって
以下の調査に協力してもらいました。、

・年間の作業暦、
・野菜の品種とどこに植えているかの調査、
・果樹の所有状況と今後増やしたい樹種の調査

その後はそれを清書しなおしたり、上司や役場へ提出する意見書や隊員報告
書を書いていたら11月を迎え、11月には8地域で以下の調査を実施しました。

・生活改善のための25項目の実践状況調査、
・健康についての自覚症状と摂取食品の関連性についての啓蒙、
・果樹調査、
・野菜調査、
・1日の家族の生活時間調査

調査と言っても定例会に参加する農家数が3人とか5人というのがざらなので、
今のところ述べ人数で言っても100人前後に協力してもらった程度です。

 調査の仕方は、例えば野菜調査なら要らない紙で折った箱のなかに50品種
の野菜の名前の書いた紙切れと色紙を入れておき、どこに植えているかを、
家の付近、温室、畑などの絵を書いた模造紙を広げ、あてはまる場所にその
野菜カードをはりつけていくもの。カードは色鉛筆で統一した色をつけ、その同じ
色の紙に自分の名前を書いてもらって最後にその色紙を持って一人ずつ顔写真
をデジカメに収め、事務所に戻ってから、誰がどこにどういった野菜を所有して
いるか清書しなおす。顔写真はその地域でまとめて印刷し、自分の机の脇の壁
にはりつけ、暇があればなるべく見て名前と顔を覚えるようにしています。今80
人ほどの顔写真が私の机の脇の壁にはりつけてありますが、この顔写真作戦
は農家や同僚にも好評で、ほかの隊員にも評価してもらいました。

 さて、赴任の最初は気張っていたけれど、11月半ば過ぎから年末までは中だる
みで、仕事について悩んでばかり、模索の毎日に突入してしまったのです。
そこからこの2ヶ月ほど、どう変化したか、はまた明日。


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